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トランプは貧困層の革命ではない

 

クリントンの敗北を「貧困層の声に耳を傾けなかったからだ」と理由付ける言説がある。間違っている。

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Election 2016: Exit Polls - The New York Times

 

上の図で見ても分かる通り。むしろ貧困層はクリントンを支持している。

 

これは当たり前の話で、アメリカで最も貧しいのは黒人だからだ。ついでヒスパニック。白人は相対的にはまだ豊かなのである。(彼らがどう感じているかは別にして)

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白人の高学歴層、というか留学生が多そうな大学の出身者がトランプを嫌悪していたことは事実だ。私も少なくとも、トランプ支持者は見たことがない。彼ら彼女らは一様にバークレーとかスタンフォードとかハーバードの出身だ。(まぁ多分トランプ支持者は日本人と友達になんてなりたくないだろう)

しかし、ミッドランドの白人の多くはトランプに票を投じた。カレッジを出ているものも多かった。彼らは貧しいものでも馬鹿なものでもない。

結局、わかりやすくサマリーするなら、白人はトランプに票を投じ、有色人種はクリントンに票を投じた、ということになる。

 

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まぁ、今更の話かもしれない。それぞれの政党の支持基盤はますます人種によって隔てられるようになっている。これは、白人が減っているからこそ、という部分もある。かつては殆どが白人だったので、そもそもマイノリティ票は誤差の範囲だった。

そういう時代においては、むしろマイノリティ票を取り込むために様々な工夫をこらした。トランプと比較されやすいレーガンも、人種差別解消には(少なくとも)積極的な姿勢を見せていた。

今は違う。マイノリティはすでに三割である。

 

以前、一枚の絵が Twitter で広まった。左が共和党のポール・ライアンのインターン生、右が民主党のインターン生だ。

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www.nbcnews.com

 

アメリカの6割の白人は、ある候補者に票を投じた。彼はメキシコ人は強姦魔で、泥棒だと発言し、自分は五番街で人を撃ち殺しても支持されると発言し、ムスリムは入国禁止にすべきだと発言し、対立候補者を牢獄にぶち込むべきだと発言し、オバマはアメリカ生まれではなくケニア生まれだと考えていた。

彼ら彼女らが差別主義者であるとは言わない。普通の市民だ。ただ、トランプ支持者は疑いようもなく「大統領が差別主義者であることを許容した」のだ。コレはマイノリティにとっては凄まじい恐怖だ。

「メキシコ人は強姦魔だ」なんていう大統領がいる国で暮らすメキシカンは、どれほど恐ろしい気持ちでいるかわかるだろうか? 少し冷静に考えてほしい。

 

白人中間層の運動として起こり、トランプ支持の母体となったティーパーティーは、「ろくでなしの保険料を何故払うんだ」「負け犬の焦げ付いた負債を救済すべきではない」という、貧困層への攻撃として始まった。

むしろこれは既得権益の保護という考え方のほうが近い。

http://jp.wsj.com/public/page/0_0_WJPP_7000-106463.html

そして、貧困層への攻撃と、オバマ政権への攻撃は、黒人への攻撃になった。それはもう必然的に。そこから更に人種対立は激しくなっている。

それは貧困層の逆襲というような美しい話ではない。そして、アメリカでは年間100人以上の武器を持たない黒人が射殺されたのと無縁でもない。

Police killed more than 100 unarmed black people in 2015 — Mapping Police Violence

 

今回、Times の調査によると、9割近い黒人がクリントンに票を投じた。にも関わらずトランプは白人の6割の大統領になった。これはもはや二つの国家が一つの国の中にあるに等しい。

トランプは、「オバマケアは大惨事だ」「移民を追い出して雇用を守る」「税金の無駄遣いをなくす」と言っている。

それを信じるなら、四年間で社会保障は削られ福祉は脆弱になるだろう。その直撃を受けるのは最も貧しいもの、つまり黒人やヒスパニック、あるいは先住民だ。それを見て、トランプ支持者は快哉を叫ぶのかもしれない。私の大切な税金がろくでなしのマイノリティに使われずに済んだと。

 

少なくとも、これだけは言える。トランプ大統領により最もダメージを受けるのは、貧困層だ。そしてそのツケは、深刻な国家の分断という形でアメリカ市民全員が払うことになるだろう。

 

最後に、いくつかツイートを紹介したい。気が滅入るが、これから何が起こるか予想をするためには重要だ。

この結果は間違いなくアメリカのポリティカル・コレクトネスを後退させる。「ポリティカル・コレクトネスとか言ってたお前らが間違ってたんだ」ということだ。

それはおそらく、ムスリムやヒスパニックへの攻撃という形で顕在化するだろう。あるいは、我々アジア人に対しても。

https://twitter.com/ShaunKing/status/796399173469868032

 

彼らは間違っていたのだろうか?差別を糾弾するのは「ポリコレの棍棒」なのだろうか?ある民族を「強姦魔」と呼ぶ人物を支持する気持ちを汲んで優しく微笑むべきだったのだろうか?ある宗教を信じる人を入国させない、と言う人々に寛容であるべきだったのだろうか?

アメリカ国民は、その問いを抱えて生きていくことになるだろう。