読む国会

国会・政治をわかりやすく解説するニュースメディア

三浦瑠麗氏の「スリーパーセル」発言に含まれた数々の矛盾について

三浦瑠麗氏がフジテレビ「ワイドナショー」で発言した「大阪に多数のスリーパーセルがいる」について、批判が集まっている。

 

三浦氏は、ハフィントンポストの取材に答えた上で、批判に応える記事をブログに上げている。

 

 冒頭申し上げておきたいのは、北朝鮮工作員は存在するということだ。

 例えば、西新井事件や新宿百人町事件、あるいは数々の拉致事件に、日本に在住する工作員・諜報員が関与していたことは自明である。

 諜報活動はどの国も行っている。イギリスの例で言うなら、諜報機関であるMI6の長官候補までなったキム・フィルビーが実はソ連のスパイであった、という例もあるわけで、当然日本の中にも諜報員が存在するであろう。

 防諜が国家の重要な責務であることも論をまたない。

 であるから、そこの点に関して、何も申し上げることはない。北朝鮮の工作員は存在し、その存在は日本にとって脅威である。それは論点ではない。

 

 問題は、三浦氏が番組で語った下記のような点である(太字は筆者)

三浦 もし、アメリカが北朝鮮に核を使ったら、アメリカは大丈夫でもわれわれは反撃されそうじゃないですか。実際に戦争が始まったら、テロリストが仮に金正恩さんが殺されても、スリーパーセルと言われて、もう指導者が死んだっていうのがわかったら、もう一切外部との連絡を断って都市で動き始める、スリーパーセルっていうのが活動すると言われているんですよ。

東野 普段眠っている、暗殺部隊みたいな?

三浦 テロリスト分子がいるわけですよ。それがソウルでも、東京でも、もちろん大阪でも。今ちょっと大阪やばいって言われていて。

松本 潜んでるってことですか?

三浦 潜んでます。というのは、いざと言うときに最後のバックアップなんですよ。

三浦 そうしたら、首都攻撃するよりかは、他の大都市が狙われる可能性もあるので、東京じゃないからっていうふうに安心はできない、というのがあるので、正直われわれとしては核だろうがなんだろうが、戦争してほしくないんですよ。アメリカに。  

 この発言に根拠はない。少なくとも、開示できる根拠はない。

 三浦氏は、安全保障の専門家の間では常識、と述べながら、公開されている情報では一切それらを示していない。ブログでも引用した公開情報は、デイリーメール(イギリスのタブロイド紙。Wikipediaですら出典に使えないほど信憑性が薄い。あとものすごく下品)の記事以外にゼロということになる。

 

 さて、三浦氏の発言には致命的な矛盾が沢山ある。例えば、三浦氏は、ハフィントンポストの取材に対して下記のように答えている。

一般的に、テロリストは都市部にこそ潜伏しやすいものです。また、アメリカの9.11テロのように第2の都市を攻撃対象として狙う可能性があります。いきなり首都への攻撃だと全面戦争を招きかねないからです。

つまり、そうした条件を考え合わせると、日本では大阪が危険ということになるわけです。しかも大阪は1980年代に、北朝鮮の工作員による拉致事件が起きたことがあります。

こうしたことから、東京だけが狙われていると安心しきってはいけない、むしろ大阪のような大都市こそが危ないということを伝えようとした発言でした。番組のMCの皆さんも大阪に縁のある人ですしね。 

 「そうした条件を考え合わせると」と言っている以上、「大阪やばい」は、アメリカの9.11テロなどを参考にした上で考えた、彼女の独自の見解であるということがわかる。

 つまり、「大阪やばいって言われていて」という発言には根拠がない。

 また、この発言と、テレビの発言は矛盾している。番組内では「実際に戦争が始まったら、テロリストが仮に金正恩さんが殺されても」と述べている。一方、ブログの中では「いきなり首都への攻撃だと全面戦争を招きかねない」と述べている。

 この二つは、どのように頭を捻っても論理的に整合し得ない。既に戦争が始まっていて、最高指導者が殺されたという段階に至って、なぜか首都である東京ではなく、大阪に破壊活動を行う理由は「全面戦争を招かないため」だそうだ。金正恩氏が殺されていながら、全面戦争になっていないというのはどういう状況だろうか。

 まず、ありえないことがわかるだろう。

 

 土地に浸透し密着し、有事まで事を起こさない諜報員は一般的に「スリーパーエージェント」と呼ばれる。

 彼らのように、日本に生活があり、根付いている人間が、北朝鮮が崩壊した後にわざわざ破壊工作を行う理由はなんだろうか。 更に言えば、なんでわざわざ金正恩が死んだ後に、首都機能のない都市を破壊しなければいけないのだろうか。

 仮にテロなどで都市機能が混乱したとしても、それで北朝鮮が戦争に勝つことはない。

 

 イスラム国などが扇動しているローンウルフ型のテロは、明確な理由を持っている。それは、自らの力を誇示し、国外の協力者をイスラム国に惹きつけることだ。

 しかし、北朝鮮が戦争に突入し、金正恩が殺される、つまり北朝鮮が国家として崩壊した後に、わざわざ工作員が破壊活動を行う理由があるだろうか。

 大日本帝国の例を引くまでもなく、その段階で必要なのは終戦工作である。あるいは、外構ルートを通じた政府高官の脱出だろう。破壊工作なんかやっては益々こじれるばかりでなんの益も無い。

 よしんば、祖国に殉ずるためにテロを行うにせよ(こういう言い方が正しいとは思わない。もちろんテロは間違った行為である。強調しておく)、首都東京、霞が関など国家機関を狙うほうがよほど効果的である。あるいは、原発かもしれない。なにせ、「全面戦争を避ける」必要など無いのだ。大阪は大都市ではあるが、首都機能があるわけではない。

 

 日本国内に工作員がいるということは事実だとしても、彼らが金正恩が殺された際に大阪でテロ活動を行う指令を既に受けている、ということがあるだろうか。

 例えば、平壌放送は時々乱数放送を行っており、かつて工作員への指令に使われていたと言われている(諸説あるが)。

 現在でも、通常工作員や諜報員には何らかの形で接触せずに本国からの指令を出す手段がある。 

 そのような段階で、最高指導者が死に、指揮命令系統が隔絶されたあとは破壊工作をせよ、などと取り決めをする意味があるだろうか?

 前述の通り、終戦工作をしているときに勝手にテロなんかされては北朝鮮にとってもいい迷惑なのだ。

 よしんば取り決めがあったにせよ、それが外部に漏れるとも考えづらい。

 仮に公安が何らかの形でそれを掴み、うっかり三浦氏に漏らして、それを三浦氏がメディアで話していたとすると、むしろ国家機密や国家の情報コントロールに関わる問題である。

 

 問題は、北朝鮮の工作員がいるという点は事実であるにせよ、それ以外の全ては三浦氏の推測と想像に立脚しているということだ。

「大阪がやばい」「本国と断絶されても、最高指導者が死んでも破壊工作を行う」「繁華街が狙われる」

 これらの発言が三浦氏の想像にすぎないことは示してきた。専門家が根拠なき発言で危機を煽ることは有害であり危険だ。

 

 しかし、三浦氏は、ブログの釈明で論点をすり替えている。例えば下記のような点である。

 同様に、スリーパー・セルが日本に存在することとも、向き合わないといけないのです。

 テロリストがいると思えば、当然テロ捜査をしなければいけないわけで、その過程を通じて、テロリストがいない社会よりも人権保護に関する懸念が生じうることは確かでしょう。だからこそ、安全だけでなく人権保護の観点をバランスさせながら重視していく必要があります。

 何度も繰り返して言うが、日本国内に北朝鮮工作員が存在することを否定はしていない。彼らは拉致問題などに深く関与していたし、日本の安全保障を脅かしている。

 問題は、地域を特定して危険を煽ったことにある。また、その影響に対しても充分自覚的であることだろう。

 彼女はハフィントンポストの取材に対し、下記のように答えている。

また、在日コリアンに対する差別や偏見を助長するというTwitterの反応についても、私は番組中、在日コリアンがテロリストだなんて言っていません。逆にそういう見方を思いついてしまう人こそ差別主義者だと思います。 

 大阪がやばい、というのは彼女独自の見解だ。三浦氏の発言をもとに在日韓国人朝鮮人に対して攻撃的な発言を加える例はすでにある。

 わざわざ独自の見解を引っ張り出してきてまで、東京ではなく「大阪がやばい」と発言したことに意図がなかったというのは、考えづらい。

 もし仮に無自覚であったとしても、これが有害な発言であることに気が付かなかったとすれば、メディアに出る人間として極めて危険である。

 関東大震災の際に起きた朝鮮人虐殺を思い出した、とTwitterで発言した人も多くいた。この発言がどのような意図を持ったものであれ、「大阪に北朝鮮のテロリストがいる」とメディアで発言することの意味を、理解出来ないほど彼女に知性が欠けているとは思えない。

 

 三浦氏は、デイリーメール以外に、発言の根拠を明確に示すべきである。それが出来ないのであれば、専門家を名乗る資格はない。

 逆の視点で考えてみよう。もし本当に三浦氏が我々の知り得ない非公開の重大情報を持っていて、それをテレビで発言していたとしよう。

 三浦氏は、安倍総理とも食事をされる仲である。そのような人物と我が国の最高責任者が秘密裏に会合しているのは国家にとって重大な危機だろう。

 それよりはまだ、三浦氏は根拠なく発言したとしたほうが、日本にとってはいいのではないだろうか。 

 無論、いずれの場合にせよ、三浦氏がメディアで語る資格を持たないというのが、私の結論ではあるが。