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日本国の機能不全と労働者の軽視 ー 臨時国会における入管法改正の審議を振り返る

日本の未来とはなんだろう、と問われたら、どう答えるだろう。私はこのツイートこそが、日本の未来だと思う。

高村議員、金子議員、中曽根議員には共通点である。

同期当選であり、男性であり、父・祖父が政治家であり、慶應義塾大学出身であり(そのうち二人は幼稚舎から慶応で、東京育ち)、若手の議員のホープと目されている。

彼らはこれから引退までの30〜40年、日本の政界の中心で有り続けるだろう。これが「日本の未来」だ。

 

私は臨時国会の終盤に、このようなツイートを見て、一体日本という国家はどのような未来を描くのだろうと考えた。

国家の大きな物事が小さなインナーサークルで意思決定され、その経緯が見えなくなっている。そして、その反動として、国会はますます機能不全に陥っている。

そして、ある一部のインナーサークルを除く、多くのはたらく人の権利は、ますます軽視されるようになっている。

 

日本の現在は、なんだろう。臨時国会で何が起きたのか、改めて考えてみる。

入管法改正の何が問題だったのか

入館法改正には、多数の問題がある。その多くの問題は、そもそも煮詰まっていないという点だ。

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そもそも入館法改正は、臨時国会の開幕前に突然持ち上がった話題だ。突如として、生煮えのまま政府から提出され、委員会での38時間の質疑を経て採決された。

 

現段階では、受け入れ上限すら決まっていない。ほとんど細部が白紙のまま、外国人を受け入れることだけが決まったのだ。

 安倍晋三首相は26日の衆参両院の予算委員会の集中審議で、外国人労働者の受け入れ拡大に向けた入管法改正案について、分野別の受け入れ人数の上限が法改正前には確定しない、という見通しを示した。

 政府は2019~23年度の受け入れ見込み人数を「最大34万5150人」と説明してきたが、山下貴司法相はこの数字が「各省が出した『素材』であり、上限ではない」と答弁。法案成立を急ぐ政府の準備不足が改めて露呈した。

本来、立法府というのは、法案を提出して、それを審議する場である。しかしながら、重要な部分は省令によって決める、というのでは、立法府が本来審議するべき事項は一体なんなのか、と思われても仕方がないだろう。

法案が審議入りする前の予算委員会では、山下法務大臣はこのように述べていた。

山下法務大臣 まず、受入れの規模に関しては、現在、農業、建設、宿泊、介護、造船など十四の業種から受入れの見込み数について精査をしているところでございます。それについて各省庁と作業中であり、できるだけ早く示せるよう鋭意作業を進めておりますが、近日中に法案を提出予定であり、法案の審議に資するよう鋭意作業を進めたいと考えております。

長妻議員 そうすると、法案の審議入りまでには業種の数を確定して受入れの規模も確定するということでよろしいんですね。

山下法務大臣 法案の審議に資するように鋭意作業を進めたいというふうに考えているということでございます。

長妻議員 これ、全然生煮えなんですよ。人数の規模もわからないということでありまして、当然、上限はつけるんでしょうね、上限、受入れ人数の。お答えいたします。

山下法務大臣 まず、上限というのは数値ということかということでございますけれども、今回は数値として上限を設けるということは考えておりません。

このように、そもそも受入数の上限すら決まらない制度運用が当初より予定されていたのだ。

 まず野党がただしているのが、受け入れ人数の見通しだ。2日の衆院予算委員会では国民民主党の奥野総一郎氏が「健康保険への影響もあり得る。どれぐらい増えるかあらかじめ示してほしい」と質問した。政府内には「初年度で4万人」という試算もあるが、山下貴司法相は「関係省庁と精査している。法案の審議に資するように説明したい」と述べるにとどめた。

 受け入れ業種や人数を改正案に明記せず、法成立後に省令で定めるという政府の姿勢にも批判が出ている。立憲民主党の長妻昭代表代行は記者団に「業種は増えるのか、来年4月以降のサポート支援はどうなのか、一切分からないがらんどうの法律だ」と指摘。参院の国民民主党の舟山康江国会対策委員長も2日の会見で、「基本が決まってからきちんと法案提出をして、中身を詰めていくのが当たり前だ」と述べた。

このような政府の姿勢は、そもそも立法府の存在意義をなくすものであり、今に始まったことではないけれども、本当に国会を有名無実にしようと考えているのだ、と思わざるを得ない。

入管法の審議時間は、IR実施法よりも更に短い17時間だ。安保法案の116時間はもとより、TPPの70時間、働き方改革関連法の39時間と比べても極めて短いことがわかる。

日本の国の形を根本的に変える法案が、このようななし崩し的な質疑の中で

  

「臭いものに蓋」の国会のあり方とは

今国会では、いわゆる技能実習制度に関して、実習生の様々な劣悪な環境が明らかになっていた。

 

更に問題となったのは、政府が技能実習生の個票を開示せず、また開示した後も、なぜかコピー不可という不可解な対応をしていたことだ。

このため、わざわざ現職の衆議院議員が手書きで個票をコピーすることを強いられた。

これらも含め、この間の政府の対応は、極めてクローズドで、透明性を欠いたものだったことは指摘をしておきたい。

 今、警察に言ったらいいよというやじが自民党からありました。しかし、こういう状況が放置されているんです、残念ながら。一人や二人じゃなくて、ここにそのような現状が詰まっているんです。
 これは個別の問題じゃなくて、構造的な、技能実習制度のはらむ問題なんです。そのような問題を放置して、警察に任せとかいろいろおっしゃいますけれども、その元締めは国会じゃないですか。しっかりと外国人の人権を守る最終責任は国会が持たないとだめなんじゃないですか。それが立法府の務めじゃないですか。そんな簡単に警察に言えと言って、警察に言っても状況がよくならないからこういう現状に今残念ながらなっているわけであります。
 話を続けますが……(発言する者あり)その方々を助けましょうとおっしゃったから、そうなんですよ、みんなで一緒に助けようじゃないですか、こういう困っている方々を。与党も野党も関係ありません。日本が好きで日本に来た労働者の方々を一緒に助けて、救おうじゃないですか。そういう話を私はしているんです。

 

平成30年11月27日 衆議院本会議 山井和則議員 

11月27日の衆院本会議、山下法務大臣解任決議案への賛成討論として、山井和則議員はこのように訴えた。議場にはたくさんのやじが飛んだ。

私も、原稿を読みながら、余りにも自民党の方々のやじのレベルの低さに本当にびっくり仰天をしております。採決しようとおっしゃっているのは与党なんですよね。今から審議に入るんじゃないんですよ。私たちは審議をやり直そうとしているんですからね。

山井議員は最後にこう締めくくっている。

国際的に奴隷労働とさえ批判されている制度は許されません。海外の有能な労働者に、日本はこのままでは選ばれません。

そんな差別を固定化し拡大する法案を法務大臣が推進するのは、辞任に値します。一番悪いのは、この法案を主導し、山下大臣を任命した安倍総理大臣であります。

日本を、世界一人を大切にする国にしようではありませんか。私たち、愛する国日本を、外国人から世界一愛される国にしようではありませんか。

 

賛成討論すらない国会

山井和則議員に野次を飛ばしていた自民党は、今回どのようにこの移民法を主張していたのか。本会議における平沢勝栄議員の賛成討論は下記になる。

技能実習生の労働環境などに一部問題があることは事実ですが、ほとんどの技能実習生は真摯に実習に取り組み、制度が適切に運用されているのが実態であります。このことは、ベトナムやインドネシアなど、多くの国から技能実習制度が高く評価されていることからもうかがえるところであります。
 一部の野党による、改正案審議の前提が崩れたなどとの指摘は、全く見当違いと言わざるを得ません。
 現下の深刻な人手不足への対策は待ったなしの状況にあり、法務委員会では、制度の必要性、受入れ業種とその見込み数、特定技能の要件、技能実習制度との関係などについて、参考人質疑も行いつつ、必要な審議を行ってきました。
 新たな制度に対する懸念についても質疑がなされ、今回の受入れによって日本人の雇用や治安に影響を与えないという点についても丁寧な説明が行われたところであります。

 

平成30年11月27日 衆議院本会議 平沢勝栄議員

このように、人手不足は地元にとって重要な議題である、という論拠を一貫して主張してきた。

これは、もちろんある意味では事実だろう。すでに日本という国は、日本籍を持たない外国出身者による労働力がなければ機能しない。

だからこそ、外国出身者に対しても、日本で働くにあたり、十分に人権が守られるべき制度運用がなされるべきなのではないか。

 

高橋まつりさんの死から一年が経ち、お母様が手記を公表された。しかし、状況はさらに悪化しているようにすら見える。

 

 

入管法改正は、日本人にとって無縁の法案ではない。はたらく人の人権をどう考えるか、という問題である。

働き方改革を含め、日本という国家がはたらく人を軽視し、労働者の人権を守らない国であることが、明らかになった一年ではないだろうか。