自民党はデータと事実を捨て、近代国家を放棄する覚悟があるか ー 高度プロフェッショナル制度の委員会採決を巡って
この記事はかなり長い。それを断った上で、憲政史上最悪とも言える、厚生労働委員会の採決に至るまでの経緯を説明したい。
この経緯は実況していただいた、法政大学の上西教授のツイートを引用している。
さて、5月25日、すでに不適切なデータが見つかっていた高度プロフェッショナル制度を審議する衆議院・厚生労働委員会において、再び不備が見つかった。
採決を予定していた当日の朝だ。
厚生労働省は25日の衆院厚労委員会理事会で、ミスが相次いで発覚した労働時間調査について、野党側の指摘で新たに6事業所で二重集計するミスがあったと報告した。
西村議員が指摘していた今日の理事会に提出されたデータの重複報告、これだそうです(長妻議員より提供いただきました。手書きメモ部分を削除)。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
なぜ「コピー」が混在するなんてことが起きたのか、その説明はなし。 pic.twitter.com/WPSC1JSjFp
そのような中、厚生労働委員会が開かれた。
厚生労働委員会(立憲民主党・西村智奈美)
午前中、まず維新の議員が質問をした後、共産党の高橋議員が限られた時間の中に質問をした。その後、西村議員。
続いて、西村ちなみ議員。
西村:午前中で質疑終局、採決ということが理事会で提案され、野党が反対する中で委員長が職権でそれを決めた。とんでもないこと。」— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村議員、英断をもって高プロの削除を、と求めるが、加藤大臣、従来の答弁を続ける。「真に自律的に働いていただける方に、その環境をつくる」と。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:撤回しない、と。家族の会の方と面会された、どういう話を、どういう気持ちで、お聞きになったのか。本当の意味で受け止めていたら、高プロはやめようとなるはず。フレックス制や裁量労働制で、十分対応は可能。それを検討せずに、高プロありきで議論が進んできた。そのことに大臣の資質を疑う
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:また今朝、データ精査結果がでてきた。本当に驚く結果。11000件あまりから裁量労働制のデータを削除、その後、異常値を削除、それらで2割が削除された。残りの8割の中にも私たちが検討したらおかしいものがあった。長妻議員、尾辻議員が指摘。山越局長が答弁。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:しかし今朝の報告。6件のデータについて、まったく同じ内容だったもの、コピーが混在していたことが判明、と。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
ありえない。私たちがデータの精査に費やした質問時間、どれだけだったか。また答弁もいいかげんだった。この前の尾辻議員の質問時間は少なくとも返していただきたい。
西村:労政審に提出された二次加工データの再提出を求めた。それについて、精査データをもとに二次加工データが提出された。しかし、新旧の対照がわからないように出てきた(とんでもない!)。高橋議員がすぐに確認して、結果に大きく乖離があるものを指摘した。今回は、重複も出てきた。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:与党のみなさんだって一緒に怒ってくださいよ。こういう状況ではとても採決できないと、与党の方も、一緒に声をあげてくださいよ。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
高鳥委員長も厚労省も、今日の採決に向けて話を進めてきた。データ精査結果の提出も、時に遅らせ、時に早めてきた。加藤大臣、あなたは不信任です。
こうして、加藤大臣に対する不信任が出された。
厚労大臣不信任に関する趣旨説明(立憲民主党・西村智奈美)
西村議員が、再び本会議にたち、不信任の理由を説明した。
本会議。加藤大臣不信任決議案。提出者の主旨説明。西村議員。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:今朝の理事会で、大変驚くべきことがあった。25年調査に関して。この調査は法案の議論の出発点。閣議決定に基づいて行われた調査。労政審に提出され、12回にわたあって二次加工され、労政審の議論に供されてきた。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:当初、裁量労働制に係るデータが削除された。それでもおかしいところを野党が指摘。900あまりを削除。全体で2割が削除された。残りは正しいのかと精査結果を求めて野党が検討すると、何か所もおかしなところ。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:尾辻かな子議員が、異なる事業場なのに、結果がすべてぴったり同じデータがある、おかしいのでは、とただしたが、厚労省は理論上ありうると答弁。加藤大臣も精度があがった、と。しかし、異なる通し番号でデータがすべて一致しているものについて、と報告。なんと、コピーの混在、と。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:次から次へとおかしなデータが出てくる。これは底なし沼ですか?これではエビデンスに基づく審議はできない。にもかかわらず、法案の正当性を強弁。厚生労働行政の信頼が失墜していく中でなにひとつ信頼性回復の方向性を示さない大臣。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:野党の質疑をかわす論点のすり替え、はぐらかし、個別の事案にはお答えできない、話を勝手に大きくして
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
例えば論点のすり替え、「ご飯論法」と呼ばれます。
質問者「朝ごはんは食べましたか?」
答弁者「(パンは食べましたが)ご飯は食べませんでした」
答えたくないので論点すりかえ#ご飯論法
不信任理由
西村:不信任の理由。
第1 働き方改革関連法案に対象業務の拡大を盛り込む予定であった裁量労働制について、データ問題、数々の失態。行政への不信を招いた。厚労省は3年前から不適切な比較データをもとに、裁量労働制の労働者の方が労働時間が短いという虚偽の説明を繰り返してきた。— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:安倍総理は、「厚生労働省の調査によれば、裁量労働制で働く方の労働時間は、平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答弁。しかし、25年調査を確認したところ、実は裁量労働制で働く労働者と一般労働者のそれぞれの労働時間の平均値の比較ではなかった。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:それぞれについて、「平均的な者」のみを取り出して、比べたものだった。裁量労働制では長時間労働に歯止めがかからなくなるという指摘に対して出したデータとしては、大変不適切。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:私がいま申し上げた数値から裁量労働制の労働者の方が通常の労働時間制の労働者よりも労働時間が長い傾向は明らか。労働時間の平均でみても、通常は186.7時間、企画で194.4時間、専門で203.8時間。裁量労働制の方が明らかに長い。(聞いていただけてなかったようなので、と再度)
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:安倍総理がこのデータを参照するのではなく、25年度調査から「平均的な者」のみを取り出してあえて紹介したことは、データを示すことによって反証ができたかのように装うものでしかない。そのような答弁は不誠実で、国民を欺くもの。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:裁量労働制に「満足」と答えている人にも、長時間労働への懸念が表明されている。「裁量と言うのは名ばかり。朝9時出勤が固定化され、夜も20時、21時まで勤務は常。もう少し働き甲斐があるような制度の見直しを。このままでは優良企業とはいえない」など。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:裁量労働制に「満足」と答えている人にも、長時間労働への懸念が表明されている。「裁量と言うのは名ばかり。朝9時出勤が固定化され、夜も20時、21時まで勤務は常。もう少し働き甲斐があるような制度の見直しを。このままでは優良企業とはいえない」など。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:これは現行の裁量労働制に「満足」と答えている人の声。「やや満足」とする人にも深刻な声。「現在の職務は残業が多く、有給も少ない」
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
これが生の声。
過労死遺族の声
西村:先日、法案審議の真っただ中に新たな過労死が報告された。27歳の男性、過労死。クモ膜下出血。長時間労働の末に。裁量労働制の適用になった直後に3日間にわたって連続勤務。その後にクモ膜下出血で亡くなった。— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
捏造が何故起きたのか?
西村:ねつ造を提出資料から読み解きたい。1つ、専門業務型裁量労働制。実際は「労働時間の状況」であったのに「労働時間」とのみ。
2つ、計算式で求めたものであるのにその旨を記載せず。
(これらは、2015年に民主党に厚労省が提出したデータについて。詳しくはこちら)https://t.co/stkPcV62yC— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:4つ、法内残業が考慮に入れられておらず、過大推計になることを明記していない。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
5つ、最長の1日の実績であることを明記せず。
6つ、実際は一般労働者のデータは最長の1日のものであるにもかかわらず、注釈には、「1日あたりの労働時間の平均を示したもの」という事実と異なる注釈
西村:7つ。計算式によるデータを含んでいるにもかかわらず、25年度調査(厚労省)と、あたかもこの表が調査結果のデータそのものであるかのように表記。しかも「出典」などとかかれていない。意味不明な「※」印。あたかも出典表記であるかのように装っている。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
西村:8つ、平均的な者の定義を明記せず。9つ、下限としてあたかも7時間以下が存在するかのように装って表が作成されている。10つ、注釈に「統計上集計を行っていない」と書かれているが、これは意味不明。個票データから集計は可能。にもかかわらず集計できないかのように書いている。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
この答弁は二時間にもおよび、途中、西村議員が過労死遺族の声を紹介して声を詰まらせる場面もあった。
不信任は反対多数で否決され、議論は再び委員会に引き戻された。
驚天動地の委員会採決(国民民主党・岡本充功)
そして、議論の場は委員会に戻る。ここでも何人かの議員が質問に立ったが、岡本充功議員の質問の最後にそれは起こった。
これはぜひ、雰囲気を理解していただくためには、実際に動画を見ていただきたいところである。
岡本:これ、とんでもない話だと思います。次、データの数字の話。いまだに出てこない。本当にこの新しい数字、統計学的に意味があるのかないのか、今てもとにある数字、これも、今朝の6件によって変わった。どう変わったのか、教えて。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
岡本:それぞれのマスが変わらないのに、最後だけ変わるわけないじゃないですか。途中のクロスはどう変わったんですか?
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
(速記、止まる)
たばた政務官:(変わった内容を説明)
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
岡本:この前の数値は全部、どうなったんですか?これが変わんなきゃ、平均は変わらないでしょ?
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
山越労働基準局長:合計のところで申し上げますと、削除する前は読み上げさせていただきますと・・・
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
岡本:どこ?どこから?
(「委員長、休憩!」と野党から声)
山越局長:6.9となっております(どこが?)
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
(「紙を出せ」、という野次)
岡本:このクロス表で、どこがどう変わったのかと聞いているんです
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
(速記、止まる)
たばた:申し訳ありません、右の四か所が変化しておりますが、クロス表でありますから、整理確認しなければなりませんが・・
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
(「整理しなきゃいけないんじゃないか」という野次)
たばた:平均時間の4か所が変わっています。
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
委員長:申し合わせの時間が超過しております
(おいおい!)
岡本:4か所しか変わっていないなんて言えるんですか、5か所変わっていなきゃ、おかしいよ。ちゃんと答弁してくださいよ
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
委員長:既に持ち時間が経過しております
たばた:4か所です
岡本:合計が変わっているでしょ。合計が変わらないわけないでしょ。
たばた:合計はかわってございません。400時間超のところが・・
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
委員長:既に持ち時間が終了しております
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
加藤大臣:じゃあ、最後に簡単に申し上げますが・・
加藤:お手元のもの、最終的なものの前。増えているものと減っているものがあるわけですから・・
— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
岡本:数が変わっているわけでしょ
委員長:質疑を終了してください
岡本:ちょっと委員長、混乱しているから・・
驚天動地の採決へ
委員長:既に時間が経過しております。岡本議員の質疑時間はこれで終了しました。
委員長、勝手に質疑の終局を宣言— Mitsuko_Uenishi (@mu0283) May 25, 2018
満身の怒りをもって抗議します!
— もとむら伸子(本村伸子) (@motomura_nobuko) May 25, 2018
衆議院厚生労働委員会で、労働法制大改悪法案の強行採決
今朝の理事会で、またもやデータの間違いが発覚したと資料を出し、そのうえに強行採決。
安倍政権、自民党、公明党、働く人の命をないがしろにする議員を絶対にゆるすことはできません。 pic.twitter.com/8zJDN1dBl8
これで採決である。
データは間違っていた。朝にも分かっていたことだ。そして、そのデータがどのように間違っていたか、の書類が出ていない。その中で採決が行われる。誰か理解が出来るだろうか?出来るならやってみて欲しい。
私も国会を見て長い。けど、はっきり言ってぶっちぎりで最悪の採決だ。これより酷い採決というのはちょっと想像できない。
持ち時間が来ているから、という理由で「質疑は終了しました」と宣言する委員長もひどいし、間違っていた資料を提出していたのに、修正した資料を出さずに間違いを口頭で答える、というのも言葉を失う話だ。
また、自民党・田村憲久理事の「データの不備は高プロに関係ない」という発言は、語るに落ちる部分がある。データがどうであれ法案を通すということだ。データをもとにした意思決定ができないなら、どんなデータも紙くずに過ぎない。占星術か卜占で全部決めればいい。
事実に基づく意思決定は、近代の最低条件
近代とはどういう時代であったか。それは、ルールの確立と科学の浸透の時代であった。呪術的な権力を保持していた王政が打倒され、市民革命が起きた。
近世に始まった科学が更に浸透し、迷信や宗教的にタブーとされていたことが次々と覆り、明るい光が当たった時代だ。
地球は太陽の周りを回り、人間は猿から進化し、ハンセン病は前世の因縁ではなくマクロファージによるものだとわかった。
科学は、全てを事実に基づいて判断する。それがどれほど今までの見解と違っていても、実験によって証明されなければ科学ではない。
すなわち、近代的思考とは科学的思考であり、科学的思考とは、事実を直視する思考なのだ。
近代国家とは、まさに事実に基づいて政策を意思決定することによって成り立っていた国家だったはずだ。
今日の委員会採決において政府が行ったことは、事実に基づいて意思決定をする、という近代国家の最低条件を満たしていなかった。すでにある結論に向け、事実を捻じ曲げたのだ。
これほどまでにデータやファクトが軽んじられたことは、立法府において、私の記憶する限り一度もない。
我々はよく知っている。戦艦を沈めたはずの爆撃機が、実は小舟一つ沈めていなかったことを。そして、その結果日本がどのような煉獄に突き進んでいったか、ということを。
事実を直視できない国家がたどる末路は常に哀れなものだ。だからこそ、近代国家はまじない師の言葉ではなく、常に事実に基づき物事を合理的に決めてきたのだ。
近代を捨てる覚悟を問う
高度プロフェッショナル制度の法案自体の酷さは言うまでもない。
しかし、その採決に至る経緯は、我々が近代国家として守ってきたはずの、最低条件たるデュープロセスをずたずたに引き裂くものだった。
与党の一人一人の議員は、今まさに、日本が近代国家としての最低条件を、自ら投げ捨てていることに気がついているのだろうか。
大正デモクラシーのあとに何が起こったのか。それを我々はよく知っている。
与党と維新の議員の一人ひとりに対して、近代を放棄する覚悟があるのか、問いかけたい。
我々は今、歴史の際(きわ)に立っている。