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立憲民主党のマーケティングから見る、市民参加政治の可能性と課題

選挙が終わった。そしてまた新たな日が始まる。政治は片時も終わることはない。

今回は、立憲民主党の躍進から、日本と海外の政党のインターネット上でのマーケティングの違いなどを見ていき、今後の立憲民主党の可能性について考えていきたい。 

ネット選挙の歴史と野党 

日本の政党のデジタル化は、欧米圏に比べて極端に遅れている。2008年の大統領選挙でオバマは既にインターネットをフル活用していたころ、まだ日本では公職選挙法の問題でいわゆる「ネット選挙」が禁じられていた。

その後、自民党も、2011年にはJ-NSC(自民党ネットサポーターズクラブ)を立ち上げ、2013年には公職選挙法が改正される。

しかし、野党陣営の動きはその後も鈍かった。

旧民主党は例えば生放送での事業仕分けの中継や、幹部会見の動画配信などは先進的に行っていたが、インターネットでは酷評続きで、民進党のYouTubeの登録者数は共産党よりも少なかった。 

かつて、民主党関連のイベントで司会を努めた西田氏はこのように述べている。

民進党になった後も、 たびたび Twitter が炎上するなど、ネット関連のセンスの無さは際立っていた。

民主くんは頑張っていたのだけど。

日米英の政党ウェブサイトの比較

さて、いったい日本と欧米圏で、インターネットへの関わり方はどのように違うのだろうか。それは、政党のサイトを実際にご覧頂ければすぐにわかる。

労働党(イギリス)

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労働党のサイトを見ると、

  • Join Labour(党員募集)
  • Take Action(ボランティア)
  • Donate(寄付)

という3つのアクションを右上のヘッダーでビビットに目立たせている。さらに、トップページにフォームを埋め込んであり、遷移させること無くメールアドレスだけでも獲得しようという強い意気込みが見える。

政策などはファーストビューに一切存在しない。

民主党(アメリカ)

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民主党のサイトはさらにシンプルだ。右上に赤いCTA(コール・トゥー・アクション)の「Donate(寄付)」の文字があり、それ以外のボタンは中央の「ボランティア」しかない。

そして、労働党と同じく、ファーストビューの下部にメール購読のためのフォームが埋め込んである。こちらのファーストビューにも一切政策などは乗っていない。 

日本の政党Webサイトの特徴

対して、我が国の政党のWebサイトは、どれも情報量が異常なほど多く、ごちゃごちゃしている。

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政権政党である自民党はまあ仕方ないにしても、民進党のサイトはかなり見づらい。特に問題なのは、「何をすればいいのか」が全く明確でないことだ。

欧米圏にくらべ、ユーザーの行動に大して期待している導線が見えない。さりとて、メディアのように回遊性の高いWebサイトとも言い難い。

KPI設計の重要性

政党が支持者や有権者に望むことはそれほど多くない。極論すれば、選挙の時以外にユーザーに望むことは、この4つになる。

  • 寄付
  • 党員サポーター
  • ボランティア
  • メールアドレス(電話番号)登録

PV数などが目標数値になるべきではなく、この4つの指標をきちっと計測することこそ、PDCAサイクルを回すために必要なことだ。

だからこそ、欧米圏のWebサイトは、市民が政党に対してコミットすることを目標に設計されている。献金やボランティアが一定程度文化として根付いていることとも無関係ではないだろう。

日本の野党は、選挙運動は連合頼み、個人献金は集まらないから政党助成金目当ての離合集散が起きて有権者に呆れられる。こんなことを繰り返していれば、投票率も下がるだろう。

文化的な違い等もあるだろうが、政党のマーケティング力の違いという側面も大いにあるはずだ。

立憲民主党のWebサイト

さて、そこで、今回躍進した立憲民主党のWebサイトを見てみよう。その他の政党と、なにが違ったのだろうか。

立憲民主党の Webサイトで興味深いのは、「参加」という導線が非常に明確に明示されていたことだ。

選挙中の特設サイト

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今回の立憲民主党に関しては、「みんなで選挙に参加しよう」という目的をわかりやすく説明するためのデザインがしっかりと実装されていた。これこそ「市民参加型」の政党として、最も大切なことだ。

個人献金

また、立憲民主党には個人献金が短期間でかなり集まっていた。これも、寄付のボタンがファーストビューにしっかり大きく貼られていたことと無関係ではないだろう。

まあ、10年も前にオバマ大統領は何万回ものA/Bテストを行って莫大な個人献金を集めているわけで、まだまだ道のりは遠い。

立憲民主党の Twitter 

Twitter の運用に関しても、立憲民主党は分かりやすかった。このクリエイティブのように、場所と時間をしっかり画像で明示することで、演説会への動員のハードルを下げた。

画像一枚で「何をすべきか」まではっきりわかる。これが重要だ。 

フォロワー数がいくら増えたところで、大して意味はない。ネット上の人気が投票行動に結びつかないことは明らかだ。

しかし、今回は違った。マーケティングの担当者が、そのフォロワーをしっかりメディアバリューのある行動(ボランティア、演説会への動員など)へと結びつけることで、新聞、テレビなどでも大きく取り上げられた。

これが、今までの政党における運用と大きく違った点だ。フォロワーだけでは意味が無いことを十分承知していたのだ。

市民運動からの学び

これは、市民運動のノウハウだろう。

SEALDs や市民連合などは度々批判にあう。私も批判的に見ている部分がある。しかし、少なくともインターネット上で人を巻き込むということに関して、彼らが日本の政党より遥かに洗練された活動を行ってきたことも事実だ。

というより、それほど日本の政党が旧態依然として遅れていたということだろう。一市民団体のWebサイトよりも、何億も政党助成金をもらっている政党のWebサイトのほうが見づらいのはどういうことなのか。 

提案 : 地域主権型の政党のために

立憲民主党の課題は、中央政治(国政)だけではなく、地域の政治に対してコミットできる市民を増やすことではないか。国政はお祭りだが、地方の選挙に対する関心度は遥かに低い。

しかし、衆院選挙も参院選挙も数年に一回だが、地方の選挙は、県議選や市議選、知事・市長などを含めると毎年何かしらの選挙があるのだ。

国政になっていきなり盛り上がる、というのはやはり健全ではない。

地方の選挙できちんと市民を巻き込むことが出来れば、日本の政治に新しい流れを持ち込むことが出来るはずだ。

「ナーチャリング」という概念

マーケティング用語で「ナーチャリング」「リードナーチャリング」と呼ばれる手法がある。これは、例えばメールマガジンに登録したユーザーなどを徐々に見込み顧客に育てていくことを指す。

日本の政治においても、ナーチャリングが必要ではないか。例えば、立憲民主党のWebサイトには候補者の電話番号が乗っているが、いきなり政治家の事務所に電話するというのは相当にハードルが高い。

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だからこそ、よりハードルの低いコミットの仕方を用意し、そこから少しずつボランティアやイベントへの動員などに誘導していく必要がある。

今だからこそメールマーケティングの活用を

アメリカ民主党やイギリス労働党などのWebサイトには、メールを登録するフォームがファーストビューに設置されている。

メールアドレスと郵便番号が分かれば、その地区の候補者からの情報を送ることが出来るからだ。

例えば、党本部のWebサイトにフォームを載せて、支持層をリスト化し、定期的にその地区の県議や市議、代議士などのメッセージを送信するのはどうだろう。

いきなり電話するのは難しくても、メールくらいなら…という方は多くいらっしゃるはずだ。

東京都新宿区に住んでいるとすると、参議院選挙、衆議院の東京一区、都議選の新宿選挙区、都知事選、そして区議選に区長選と、政党としてそれぞれ応援する候補がいるはずだ。それらの候補がバラバラにメールマガジンを発行しているだけなのはもったいない。

メールだけでも獲得しておけば、地方の選挙などに有権者を巻き込むことが出来、関心を高めることが出来る。そして、長期的には党員やボランティアなどに育ってくれるかもしれない。

Webサイト、こんな風なら?

例えば下記のようにフォームを設置し、メールだけの登録者を増やしていくのはどうだろう(ついでに、ヘッダーのボタンの数を減らしてみた)。 

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今回の選挙では、半分以上の方が台風の影響もある中で投票している。政治への関心はある程度あっても、どうしていいかわからないという方も多いはずだ。

政治不信が叫ばれる今だからこそ、有権者を育て、政治に対して関わる機会を作る義務が、政党にはあるのではないだろうか。

Barack Obama | Candidates at Google - YouTube

これは、まだオバマが上院議員だった頃にGoogleで行なった講演だ。これを聞いて、ある Google 社員が辞めてキャンペーンに関わり、あれほど歴史を変える結果をもたらした、とどこかで見た記憶がある。

テクノロジーはもちろん素晴らしい。しかし、そのテクノロジーを動かす人を動かすのもまた、ヴィジョンや夢、そして言葉の力であることを私は信じている。

余談

疲れた時は社民党宮城県連のホームページを見よう。

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