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質問通告とは何か ー その責任は誰にあるのか?

桜田義孝五輪担当大臣の「質問通告がなかった」発言をめぐり、再び質問通告のあり方が話題を読んでいる。

 

そもそも、質問通告は、国会法に決められたルールではなく、あくまで与野党間の慣習に過ぎない。いわゆる「2日前ルール」に関しても、単なる与野党間の取り決めである。

しかしながら、質問通告の遅れが省庁にいる官僚の労働環境を悪化させているという批判は、近年とみに野党批判として取り上げられるようになった。

すべての議員から質問通告が出揃うのは、平均で午後8時41分。もっとも早く出揃った日は午後5時50分だった一方で、もっとも遅かった日は日付が変わった午前0時半だった。

資料作成をする担当が決まったのは、平均で午後10時40分。もっとも早かった日は午後6時50分で、もっとも遅かったのが翌日午前3時だった。

それから資料の作成に取り掛かるというのだから大変だ。

 このような現状を踏まえて、若手官僚からは提言がなされている。

http://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jinji_hatarakikata/pdf/teigen.pdf

 

今回は、そもそも質問通告とは何か、それはどうあるべきなのかについてまとめたい。

 

なぜ質問通告が遅れるのか

1. そもそも開催日程が決まらない

そもそも、日本の国会においては、本会議や委員会の開催が前日に決まることも珍しくない。2日前に通告しようにも、開かれるのかわからないのでは物理的に難しい。

この点は、自民党議員からは度々批判されている他、野党議員からも様々な形で提言がなされている。

国会の日程は基本的には前日まで決まりません。前日になってようやく「明日13時から本会議、所要時間2時間」というような予定が飛びこんできます。

地方議会は予め会期中の予定がきっちり決まっているため、地方議会の議員経験者の1年生議員の方々は、相当違和感があるようです。当方も、正直、前日まで日程が決まらないというのは参ります。

なぜこういう状況になるのか、というと、与党が多数を占めている衆院の下、内閣提出の予算や法案は、基本的には(衆院においては)修正が行われずに成立するという暗黙の前提があるため、野党が中身の議論よりも日程闘争に重きを置いているからです。(「予算の成立を遅らせて内閣を窮地に追い込む」というような、新聞紙上でよく見かける類のものです。)

 

決められない国会(日程)からの脱却 | 細田健一 衆議院議員 自由民主党 新潟2区

近年の議会は、法案成立のための日程がタイトになり、いわゆる「職権立て」(理事会の合意ではなく、委員長の職権で委員会を開催すること)が増えている。

衆院法務委員会は15日、外国人労働者の受け入れを拡大する出入国管理法(入管法)改正案について、16日に審議入りすることを葉梨康弘委員長(自民)の職権で決めた。野党側は反発を強め、15日も各党国会対策委員長が成立を阻止する方針を確認した。

 

入管法、委員会審議へ 委員長職権で決定、野党反発:朝日新聞デジタル

 このような傾向も、委員会の日程が決まらなくなる要因の一つとなっている。

 

日本が会期制の議会制度を採用しており、会期末までに審議未了で廃案にすることが野党の目的になっている、という批判は当然ある。

「読む国会」でも、度々通年国会を提案している。

 

一方で、慣例としては委員会理事会は全会一致が原則である。なぜなら、議会の委員長というのは立法府の一員であり、行政府に雇われているわけではないからだ。

近年、委員会委員長は政府の影響下を強く受けるようになった。すでに中立的な役職とは言えなくなっている。

例えば、先の通常国会では総理が河村予算委員長に「集中審議は勘弁して」などと述べたとして物議を醸した(河村氏は後に撤回)。

 

2. 大臣が官僚に依存している

そもそも、質問通告は森羅万象においてなされるべきなのだろうか?そもそも、通告がない質問というのは与野党問わず決して珍しくない。

これも今のお答えに関連してということですので、通告しておりませんので、お答えいただけるようであればということでありますけれども

平成30年07月05日 参議院内閣委員会 和田政宗議員

自民党の和田政宗議員もこう質問しているが、過去5年間の衆議院・参議院議事録を「通告しておりません」で検索したところ、248件の結果があった。「通告ありませんが」「通告していないのですが」なども含めれば相当な数である。

ちなみに、こういうときは「通告していないのでわからなければ結構ですが」などの前置きがつくことが多い。

 

通告しない例としては、下記のようなものがある。

  • 速報的な事柄に関する質問(朝刊の特ダネなど)
  • 通告するまでもなく答えられるであろう質問
  • 人間性・資質などに関する質問
  • やり取りの中で出てきた疑問

以前解説したとおり、予算委員会は慣例的に予算を執行する内閣の資質そのものを問うことが出来るため、幅広な質問がなされている。 

そもそも、国会質疑というのは生き物である。全部通告して全部答えがわかっているなら、そもそもやる必要がない。すべて質問主意書にすればいいのだから。

だからこそ、とりわけ内閣の資質を問うような質問に関しては、通告せずに質問することはおかしなことではない。

例えば、物議を醸した桜田義孝大臣の場合、オリンピックの基本コンセプトやビジョンなどは、別に通告しなくても当然答えられて然るべき質問のはずだ。

細かい予算の細目などは当然通告すべきであるけれども、基本的な質問に対して「通告がないから答えられない」と答えるのは単純に大臣としてその職責を果たせないと判断されてもやむを得ないのではないか。

 

3. 野党があえて遅らせている?

もちろん、「野党が質問通告を遅らせている」という批判も当然存在するだろう。

河野外務大臣はこのように述べている。

 

現在のように国務大臣が国会に貼り付けになる、しかも極端な時はその日の未明に質問通告が出され、そのために、すべての日程がそれでガラガラと変わるというのは、合理的とは言えません。

特に外国の閣僚が来日し、閣僚間の会談が設定されているにもかかわらず、質問通告があればそれを変更しなければならないというのは、外交にも影響が出てきます。

予算委員会ならば、どの省庁の予算の審議は何日に行うということを決めればそれに応じて大臣の日程を事前に確保できます。

大臣が質問通告に振り回され、行政のトップとしての仕事をする時間がきちんと事前に決められないということは、官民合わせてものすごく多くの人の時間を振り回していることになります。 

質問通告 | 衆議院議員 河野太郎公式サイト

いくら日程がタイトとは言え、未明に質問通告が出るような状況は、当然野党議員にも責任の一端があるのではないか。

 

まとめ

こうしてまとめてみると、大きく3つの問題があった。

  1. 前日に委員会開催が決まる、国会の日程制度
  2. 官僚に依存せざるを得ない閣僚の資質
  3. ギリギリまで通告をしない野党

一般的には、3番が最大の要因と考えられているかもしれないが、本稿で問題にするのは主に1と2になる。

 

質問通告は必要か?

そもそも、質問通告はこれほど大量に必要なのだろうか?

イギリスでも質問通告制度があるが、通告は3営業日前までになされるため、通常の勤務時間内に十分対応することができる。

 

フランスでは、システマティックな質問通告制度がないため、逆に、閣僚は一般的な準備を行った上で、その範囲内で答えるしかない。そのため、時には不正確な答弁を行ってしまうこともやむをえないものと、受け止められているようだ。 

ヨーロッパで活躍する財務官僚が寄稿──官の「人材と働き方の多様性」が国を強くする | クーリエ・ジャポン

海外ではこれほど官僚が手取り足取り、場合によっては質問に対する返答だけではなう、質問そのものを作ってしまう状況というのは考えづらい。

野党の質問通告ばかりに文句がつくようだが、小泉進次郎議員を始めとした議会制度の改革論者は「我々は官僚の働き方改革をするために、国会答弁書については縮小する。具体的な数値に関しては通告いただきたいが、それ以外は閣僚の言葉で答弁をする」と答えればいいのではないだろうか?

 

自民党の小林史明前総務政務官は、このように述べている。

イギリスの下院では、“閣僚級”同士のクエスチョンタイムは月曜から木曜まで1時間実施されます(参照:国立国会図書館『英国における政権交代』)。

同じようなシステムをもし日本に導入したら、野党側はいまよりも専門的で、かつ実のある政策論で追及し、法案の修正や廃案を迫るようになります。当然のことながら、野党としては政権担当能力を示す方向にインセンティブが働くようになるでしょう。

 

これは政権側にとっても厳しいながらメリットがあります。本質論で攻められるとなれば、矢面に立つ閣僚は、付け焼刃の勉強では対応できなくなります。そこで、諸外国に比べ大臣の国会審議への拘束がきつすぎる現状を変える。政策の勉強や現場視察、あるいは外遊などに時間をあてて政権側も研鑽を積むようにすることで今よりも生産的な時間の使い方になります。

日程闘争からの解放:与野党が真に政策を競うための国会改革へ – 自由民主党・衆議院議員 小林史明 公式サイト

小林議員が書いている通り、与野党の健全な議論のためにも、また本質的には最も官僚の負担を減らすためにも、閣僚がその言葉で語ることはとても重要ではないか。

(もっとも、そこで問題発言をすればその尻拭いをするのは官僚である、という堂々巡りの問題もあるのだが)

 

日程闘争を超えて

質問通告問題というのは、本質的には日程闘争の問題であり、それを(立法府の権限を縮小しない形で)改善しようとすると、会期制度自体、あるいは委員会中心主義自体を再考せざるを得ない。

河野外務大臣や、小林前総務政務官などが主張されているのも、いわゆるイギリス型議会への転換であり、それは必然的に委員会を縮小した上で本会議の権能を強化するという議論につながる。

また、今回の桜田大臣など、そもそも大臣としての資質に重大な疑義がある方が大臣としてその職責を担っていることも合わせて考えなくてはいけない。

 

もしも霞が関の負担を減らすということになれば、アメリカのように政党や議員のスタッフを増強し、政策立案や答弁作成の補佐をさせるという考え方もあるだろう。

「質問通告が遅い」という事象だけを見れば野党の責任あるように見えるかもしれないが、霞多くの重要法案において生煮えの状態で、立法府の中立性を侵してもタイトな日程で法案成立を目論む与党こそ、まずは立法府のあり方を再考すべきではないだろうか。