コロナ対策で「今」行うべき政策は、少なくとも消費減税ではない
先日、このツイートに対して大きな反響があった。趣旨について説明する。
なぜ消費減税を「今」検討すべきではないのか
まず、結論から言うと、ツイートの趣旨はシンプルである。「自粛と消費喚起は両立しない」ということだ。
現在、日本政府は様々な形で消費を抑制する政策を進めている。大規模イベントの自粛、不要不急の外出の自粛などである。
そして、消費減税というのは「もっと外に出てどんどんお金を使ってください」という政策だ。
消費減税をすれば、規模の大小はともかく消費は喚起されるだろう。人は旅行に行ったり繁華街にでかけたりするだろう。まさかそんなことは起こらないとは言わないはずだ。消費減税は当然の帰結として不要不急の外出を増やす。
だから、この2つの政策はどう考えても両立しない。シンプルである。ツイートの趣旨説明はこれで終わりなのだが、もう少し説明する。
まず、今からもしあらゆる政治的リソースをすべて消費減税に投入したとしても、実際に減税が可能になるのは、奇跡的に早くとも半年後だろう。
現場での様々な混乱を検討すれば、これでも相当程度、非現実的なレベルで希望的観測である。(消費税というのは動かすのがそれだけ重たい税金だ)
もし半年後にコロナウィルスの問題が継続、あるいは悪化していたらどうするだろうか。不要不急の外出は自粛しつつ消費減税を行うとなれば、喜ぶのはamazonとUberくらいだろう。
そもそも、半年後まで廃業せずに残れる事業者が増えなくては意味がない。飲食店など小規模事業者は今虫の息だ。消費減税に政治的リソースをかければ、当然事業者への逸失利益の補償はおろそかになる。
さらに、もし倒産企業が増えれば失業者は加速度的に増え、様々な形の破綻処理に日本全体が追われることになる。
つまり、半年後に消費が上向くか否かについては、コロナ対策そのものも含めて、今のこの瞬間の政府の対応にかかっているのである。
ウイルスの拡大を止め、なおかつ事業者が倒産し破綻処理に追われ、街が失業者に溢れないようにするためには、迅速な対応が必要だ。
今行うべき政策は、納税延期、給与補償、税の減免
いま重要なのは、税金支払いの延期や減免、事業者への補償や、クビ切りが起きないための給与補償や失業者への手当の拡充だ。
例えば、飲食店やイベント業者など、コロナショックにより事業そのものがストップされてしまった業種は多い。そういった業者にとって、消費税を含めた支払いは重くのしかかる。なら、畳んでしまおうという発想になってもおかしくはない。
なので、まず今年度の税の支払いを可及的速やかに延期し、可能なら減免するべきだ。これは直ぐにできる対策である。
そして、コロナの影響で事業が立ち行かなくなり「解雇」せざるを得ない事業者も多いだろう。そういった企業、あるいは不幸にも失業してしまった人に対しては、給与補償を行う。
そもそも、今も「自粛」要請をしているわけだが、何の補償もない自粛要請に一体どの程度の意味があるのか。潰れるくらいならやるしかないという興行主も多いだろう。
無論、フリーランスには、一日4000円ではなく、もっと広範に、本来の逸失利益から計算した補償をおこなう。
今起きている問題は、「景気が悪くて困っている」とか、そういう話ではない。特定の業種において、事業そのものがストップしているのだ。だから、手元に現金が入らない。現金が払えなくては税金も払えない。
消費税が〇パーセントだろうが、少なくとも自粛している間は同じ傾向であろう。だから、まずは税金支払いの延期、減免、小規模事業者・フリーランスの迅速な保護が必要だ。
これはすぐにでも出来る政策である。現金が枯渇した会社は潰れるしかない。一度潰れた会社は、もとには戻らない。
法人税の納税延長は、いわゆる納税できるほど体力のある企業のためであって、やはりここは経営が苦しく、コロナの影響が直撃している飲食店などが難渋する、消費税の納付期限の延長を電光石火で決めるべきだ。 https://t.co/8ppsQDpWAK
— 寺田 学 (@teratamanabu) March 22, 2020
これは賛成です。コロナは終息が見えないとは言え、一定期間後には高い確率で収束します。まずは迅速な時間稼ぎとして、財政に決定的な影響を与えないことから比較的判断が容易で、かつ一斉融資と同様の意味を持つ納税猶予は是非検討すべきことと思います。 https://t.co/IgL4HMi17L
— 米山 隆一 (@RyuichiYoneyama) March 22, 2020
予算措置を伴う施策を否定しているわけではない。ただ、「#資金繰り対策」という「#時間との競争」においては、すぐに実行できて、直ちに効果を発揮する施策が必要だ。
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2020年3月22日
もし消費を喚起したいなら?
今消費が落ち込んでいるのは、政府が主導して抑制しているからだ。もし今のまま消費をもっと増やしたいなら、二つの道がある。
1つ目は、人が外出しなくてもすむ消費を増やすこと。例えば、通販・Eコマースなどの形態で販売したものや、テイクアウト、デリバリーにつき数%の還元を行う。まあ、前述したとおりUberとAmazonは喜びそうな施策だ。
もう一つは、消費の抑制を諦め、ウィルスの拡大終結を宣言することだ。オリンピックも開催すればいい。海外からどういう目で見られるかは知らないが、オリンピックがやれるくらい安全なら、出歩いても大丈夫だな、と賢明なる日本国民は思うだろう。
ウイルスの拡大リスクと経済の冷え込みを天秤にかけ、もう問題ないと思うのであれば、堂々と自粛をとき、消費を呼びかければいいのだ。
別にこれは皮肉で言っているわけではない。日本は一定程度抑え込めているという見方もあるわけだから、(現状を楽観的に考えれば)自粛をやめることは選択肢に入るだろう。
コロナウイルスのリスクに対する今のままの方針を継続するなら、政府がしっかり終結宣言できるまで、消費が抑制されることは許容するしかない。
コロナウィルスとの戦いを終結させるための対策を行い、その政府の対策により失われた所得を補填し、倒産と失業を最大限にケアする。
終結が見え、日本人全員が大手を振って経済活動ができるようになったなら、減税だろうが何だろうが検討すればいい。
今にもまさに廃業しそうな事業者、フリーランスは多数いる。少なくとも今、政治的なリソースを消費減税に費やすのは、あまりに現場の危機、今にも廃業、失業しそうな方々への視点が皆無なのではないか。
「そもそも消費税は何の意味もなく、逆進性が高く貧困層にデメリットが有り、景気を冷え込ませるあらゆる税の中で存在価値が皆無の税金で、無くすチャンスが有ればどんなときでも無くすべきである」と考える人に取れば、コロナウイルスをきっかけにして消費減税を訴えることは至極合理的なのかもしれないが、少なくともコロナ対策という文脈で今この問題を語るのはあまりに粗雑と言えるのではないだろうか。