民主党政権を振り返る ー あの3年間は、一体何だったのか?
今後の議会政治のあり方を考える
野党が批判される時、そこには必ず一つのキーワードが語られる。「現実的な野党が欲しい」「他に選択肢がない」ということである。
その理由としてあげられるのが民主党政権だ。
多くの国民は未だに民主党政権に対して極めてネガティヴなイメージを抱いている。理想と野望の中で潰えた民主党政権とは、一体何だったのだろうか。
民主党の三代政権
鳩山内閣 ー 理想と混乱の内閣
鳩山内閣
総理大臣 | 鳩山由紀夫(民主) | |
副総理・国家戦略 | 菅直人(民主) | 肝いりで国家戦略相を創設も、後に財務大臣に横滑り |
内閣官房長官 | 平野博文(民主) | 鳩山由紀夫の懐刀 |
財務 | 藤井裕久(民主) | 細川政権で財務大臣を努めた重鎮も、体調を崩し交代 |
外務 | 岡田克也(民主) | 幹事長から横滑り。中国向けビザ緩和などで後の観光立国に尽力 |
総務 | 原口一博(民主) | 電波・郵政行政などを推進。 退任後は内閣不信任案提出も検討 |
法務 | 千葉景子(民主) | 死刑廃止論者として知られる。落選後も大臣を継続 |
国土交通 | 前原誠司(民主) | 羽田ハブ化などを提唱。八ッ場では苦戦も航空行政の改革に尽力 |
経済産業 | 直嶋正行(民主) | 労組出身の異例の経済産業大臣 |
農林水産 | 赤松広隆(民主) | 口蹄疫を巡っては批判も。元社会党書記長 |
厚生労働 | 長妻昭(民主) | ミスター年金。母子加算の復活や子ども手当などを推進 |
文部科学 | 川端達夫(民主) | 民社党の重鎮。高校無償化を実現 |
防衛 | 北沢俊美(民主) | 意外な起用も安定感を発揮。辺野古移設を強行に主張 |
金融 | 亀井静香(国民新) | 中小企業金融円滑化法の成立に尽力。 |
行政刷新 | 仙谷由人(民主) | 脱官僚の中心人物。功罪の大きさは民主党政権でも随一 |
消費者 | 福島みずほ(社民) | 辺野古移設を巡って連立を離脱。禍根を残す |
国家公安委員長 | 中井洽(民主) | 小沢一郎の側近 |
主な出来事(在任期間 266日)
- 支持率70%
- 国家戦略室の設置
- 沖縄県新基地の辺野古移設
- 口蹄疫問題
民主党を資金的に援助し立ち上げたのは鳩山家だ。鳩山由紀夫は民主党が誕生した時から、政権交代の暁には総理大臣になる宿命を持って生まれてきた存在だった。
スタンフォード出身、総理大臣の孫、という毛並みは、野党の中では貴重な「看板」でもあった。
しかし、アメリカとの辺野古移設を巡る交渉は難航した。県外移設には失敗し、口蹄疫問題でさらに支持を落とし、更に小沢幹事長との確執が党内のゴタゴタを演出した。
最後は金銭スキャンダルが鳩山由紀夫を襲い、参院選を前にして、小沢幹事長と鳩山政権は幕を閉じた。
菅内閣 ー 試練と対立の内閣
菅第一次改造内閣
総理大臣 | 菅直人(民主) | |
副総理・国家戦略大臣 | 菅 直人(民主) | 肝いりで国家戦略相を創設も、後に財務大臣に横滑り |
内閣官房長官 | 仙谷由人(民主) | 行政刷新相より昇格。三内閣を通じて影響力を発揮。 |
財務大臣 | 野田佳彦(民主) | 副大臣より昇格。消費税増税方針を取りまとめ |
外務大臣 | 前原誠司(民主) | 国交大臣から横滑り。後に献金問題で辞任 |
総務大臣 | 片山善博(非議員) |
鳥取県知事などを努めた後、民間閣僚として入閣 |
法務大臣 | 柳田稔(民主) | 法務行政に対する無理解と国会軽視発言で辞任。 |
国土交通大臣 | 馬淵澄夫(民主) | 副大臣より昇格。高速道路無料化の社会実験を実施 |
経済産業大臣 | 大畠章宏(民主) | 直嶋大臣に続き労組出身の大臣。日立王国の帝王 |
農林水産大臣 | 鹿野道彦(民主) | 元清和会のプリンス。細川政権でも農水大臣を勤める |
厚生労働大臣 | 細川律夫(民主) | 副大臣より昇格。子ども手当の実現に尽力 |
文部科学大臣 | 高木義明(民主) | 川端と並ぶ民社党の重鎮。国対委員長を長く務める |
防衛大臣 | 北沢俊美(民主) | 鳩山内閣に続き留任。 |
金融大臣 | 亀井静香(国民新) | 中小企業金融円滑化法の成立に尽力。 |
行政刷新担当大臣 | 蓮舫(民主) | 二位じゃだめなんですか?で一躍有名に |
国家公安委員長 | 岡崎トミ子(民主) | リベラル派の重鎮。村山内閣でも政務次官を務めた |
主な出来事(在任期間 452日)
- 東日本大震災
- 参院選で敗北
- 消費税増税の意向を表明
- TPPへの参加対応を巡る混乱
菅内閣は、誕生した当初に参院選に敗れ、ねじれ内閣として誕生した。
菅直人内閣は3.11を経験した内閣だ。その対応の成否はあれど、日本史上でも最大級の危機であったことは疑いようもない。
菅直人を語る時に、最も重要な事は、彼が日本で初めて社会運動を出身とする総理大臣だということだ。
その国民視点のセンスは、厚生労働大臣として薬害エイズ問題に臨んだ際に、強いリーダーシップとして発揮された。
原発事故などの対応に関しても、菅直人はある意味専横的に振る舞った。それは、結果として現場を混乱させた部分と、問題解決に役立った部分もあるだろう。しかし、歴史にIFはない。
日本史上最大規模の災害に際し、その対応は批判され、閣僚の失言(松本龍の最悪の発言から、『死の街』報道なども含め)や、スキャンダルが勃発し、危機管理対応は徹底的に非難された。
また、不信任案を出すほど野党自民党の徹底した抵抗にあい、予算案すら成立が危ぶまれる状況になるなど、法案成立率は4割を切った。
やがて、TPP参加の方向性などもあって小沢一郎との確執もあり、党内は大混乱に陥った。菅直人は野田佳彦にバトンを渡すことになる。
野田内閣 ー 忍耐と混沌のドジョウ内閣
野田内閣
総理大臣 | 野田佳彦(民主) | |
内閣官房長官 | 藤村修(民主) | 人呼んで政界のドラえもん。直後の選挙で落選し引退 |
財務大臣 | 安住淳(民主) | 選対委員長を長く務める。意外な起用に党内も驚く |
外務大臣 | 玄葉光一郎(民主) | 戦後最年少の外務大臣。普天間解決に尽力 |
総務大臣 | 川端達夫(民主) |
再入閣。阪神ファンとして知られる |
法務大臣 | 平岡秀夫(民主) | わずか4ヶ月で退任。またも鬼門のポストに |
国土交通大臣 | 前田武志(民主) | シドニー領事などを勤める。羽田派からの重鎮 |
経済産業大臣 | 鉢呂吉雄(民主) | マスコミ報道が加熱し辞任。後に参院で復帰 |
農林水産大臣 | 鹿野道彦(民主) | 菅内閣より留任。安定した仕事ぶりで話題に |
厚生労働大臣 | 小宮山洋子(民主) | 禁煙派として有名。たばこ税値上げを主張 |
文部科学大臣 | 中川正春(民主) | 副大臣から昇格。長く文科行政に尽力 |
防衛大臣 | 一川保夫(民主) | 就任当初より資質を危ぶまれる。4ヶ月で退任 |
金融大臣 | 自見庄三郎(国民新) | 国民新党の分裂も金融ポストを確保。娘は自民党へ |
行政刷新担当大臣 | 蓮舫(民主) | 再入閣で返り咲き。男女共同参画も兼務 |
国家公安委員長 | 山岡賢次(民主) | 長く国対を努め、待望の初入閣。後に袂を分かつ。 |
主な出来事(在任期間 452日)
- 三党合意
- 尖閣買収問題
- 国民新党が分裂
- 小沢派が離脱
- 総選挙で敗北
野田佳彦内閣はスタートの段階で既に選挙管理内閣に近かった。度重なる閣僚のスキャンダルに見舞われ、支持率は低迷した。また尖閣問題でも対応は迷走した。
しかし、「ネクスト・エレクションよりネクスト・ジェネレーション」を掲げる野田政権は、その脆弱な党内基盤では信じがたいほど、様々な政策を野心的に成立させた。
とりわけ、三党合意に踏切り、自民党・公明党とともに消費税と社会保障の一体改革を行ったことは功罪あれ日本の憲政史上例を見ないことだった。
しかし、消費税を増やして選挙に勝つというのは不可能なことだ。最後は歴史的大敗を喫し、庶民派宰相は舞台を降りた。
民主党の失敗とは
失言が問題だったのか?
『失言』という単体で見れば、麻生内閣の
- 麻生太郎 総理大臣
- 中川昭一 財務大臣
- 中山成彬 国土交通大臣
- 鳩山邦夫 総務大臣
というカルテットもなかなかのものである。金田勝年・稲田朋美コンビもなかなかのものだ。しかし、民主党は失言ということを問題にされたわけではない。
口蹄疫、尖閣問題をめぐる東京都の対応、あるいはTPPなどに対する対応で、経験不足とガバナンスの不足を露呈したことだ。
経験不足の内閣
民主党政権の失敗は『経験不足』という言葉に尽きる。
民主党政権には、沢山の理想があった。子ども手当・政治主導・コンクリートから人へ。しかしその理想の多くは全く機能しないか、部分的に麻痺していた。
よりそれらをチャンクダウンすれば、「党内意思決定システムが機能しなかった」「官僚との関係構築に失敗した」などという言い方もできるのかもしれない。しかし、それらも含めて全ては『経験不足』である。
官僚との関係構築に失敗したのは内閣を作ったことがなかったからだ。ガバナンスが不足したのは、大量の一年生議員をコントロールする術を執行部が知らなかったからだ。マニフェストが実現しなかったのは、誰も本当に実現するようなマニフェストを書いたことがなかったからである。(もちろん、それは政権運営の失敗の免罪符足り得るものではない)
寄せ集めのガラス細工の党に、更に政治など何も知らないような一年生議員が大量に入り、彼らの多くは執行部ではなく小沢一郎に付き従った。それはすなわち、優秀で党のカラーに染まった政治家を育成するほどの余裕が民主党になかったからである。
経験で選ぶなら自民党
さて、この国には経験が豊富、というより戦後一貫して半一党制を敷いてきた政党がある。
当然、経験不足を忌避するのであれば、選択肢は一つしか無い。そうしてこの国のかたちは、五五年体制以降、六〇年間作られてきた。
議会政治はどうあるべきか?
問題は、民進党批判を繰り返す議員や著名人の中に、日本の議会制民主主義がいかにあるべきかというビジョンが皆無であることだ。
戦後一貫して、自民党は党内で抗争を繰り返し、擬似的な政権交代をすることでパワーバランスを保ってきた。しかし、小選挙区制の中でそのような手法はもはや通用しなくなっている。
「自民党内の穏健左派が割れればいい」なんていうのは寝言に近い。骨の髄まで日本の社会システムに染まっており、二度と政権を手放したくないと怯えている与党議員が自民党を割れるわけがない。
事実、民進党の方がどんどん割れ、松本剛明や山口壮や長島昭久が離党している。これは利権がないからである。
「加藤の乱」で失脚した加藤紘一は、あの史上最も人気のない総理である森喜朗にすら勝てなかったのだ。
民主党の今後、日本の政治の今後とは
民主党/民進党が経験不足を露呈した(というのも変な話だが)今、自民党は永久に与党であるべきなのだろうか?
いつか経験豊富で現実的な野党があらわれるのだろうか?
我々には手札がない。そしてその手札がないのは、日本人が唯々諾々と六十年間も自民党に投票し続けてきたから、「経験豊富な野党」が存在しないという点にもある。
これが、女性議員が世界最低レベルに少なく、世襲議員が世界最高レベルに多い日本の議会のあり方である。それはおそらく国が滅びるまで変わらないだろう。
派閥政治が崩壊した今、利権は集中し、権力は集中し、それに従う議員ばかりになるだろう。議会は機能不全に陥り、珍妙な答弁も支持率には影響しない。
取り立てて気の利いた結論はない。現実とはそういうものだ。
民主党を知るためのおすすめ書籍
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民主党政権は「コンクリートから人へ」を訴え、公共事業を減らして社会保障に力を入れ、一定の成果を挙げましたが、「官僚主導から政治主導へ」の訴えはうまくいきませんでした。その根底には、民主党議員の特徴として、リーダーばかりでフォロワーがいないという、ガバナンスの欠如があるということです。自分の意見を重視して、選んだ代表に文句を言う、決まった政策にケチをつける民主党議員が多すぎました。
この本では、「政権交代神話」をギャフンと言わせている。政権交代イコールいい政治が行われるというものを否定するわけです。それは、2大政党神話についても筆者は厳しく否定しています。しかし、政権交代はしないといけない部分もあるわけです。長期安定政権のもと国民のためになればそれはそれでこしたことがないのですが、そうではない時には時の政権を退いてもらい、新たな政府を作ることが必要になるわけです。
民主党の当事者たちはどう考えているのか。どう反省したのか。次をどうしようと考えているのか。
それぞれの立場はあるのだろうが、全編通してスッキリした感じは一切しない。
あの時のあの判断は政権としてこう考えたらこうした。という種明かしは無く、各々の議員が「私はこう考えていたんですよ」と
自己防衛を語るレベルで終わってしまっている。多くの事象で誰が本当を話しているのか分からなくなる時がある。
それくらい言っている事がバラバラだ。
当事者の証言
藤村さんの言葉で印象的なのは
《内閣の権力の中枢にして、権力のすごみというものを体験しました。考えたことが、理不尽でなく筋が通っていれば実現できます。自分が発想し、発言し、周りにきちんと理解されれば現実のものになります。一代議士ではそうはいきません。それも、小さい案件だと本当に直ちに実現します》
というあたり
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官邸内部のやりとりを描いたものだが、あまりにもまとまりがなさすぎる。
資料的価値はあるだろうが、これ一冊では読み物としてはあまり楽しめない。
民主党政権の誕生から3年3か月、何ができ何ができなかったのか、様々な評価がなされている。そうした中で、このオーラルヒストリーは、なかなかの出来栄えである。
民主党政権の評価を振り返る時、必ず読まなければならない第一級の資料と言えよう。ただね残念なのは、登場人物に仙谷由人、藤井裕久のお二人がいないのは残念である。
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