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安倍総理の「政治主導」が的はずれである理由

安倍総理は国会で盛んに「政治主導で岩盤規制を打破する」と主張されている。しかし、国家戦略特区の設置と加計学園への特権的な認可は政治主導とは呼べない。

一体、政治主導とはなんなのだろうか。その歴史から、真の政治主導の実現を考える。

政治主導の歴史

橋本・小泉の時代

政治主導自体は決して悪いことではない。官僚支配が叫ばれる日本の中で、政治家は様々な形で政治主導をアピールしてきた。

近年で言うと、橋本龍太郎首相が大蔵省を解体して財務省と金融庁に分けた「省庁再編」や、小泉純一郎首相による経済財政諮問会議の設置と拡大、あるいは郵政民営化なども政治主導の一例だろう。

 

省庁の利益よりも政治家のビジョンを優先させる「政治主導」は、多くの国民に歓迎されてきたといえる。

橋本龍太郎小泉純一郎

小沢の目指した政治主導

最もこれらの「政治主導」に血道を上げたのは、小沢一郎だ。

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小沢は英国型の議会を目指し、クエスチョンタイム(党首討論)の導入、政府委員制度の廃止など、国会を活性化させるとともに、族議員の生まれにくい小選挙区制の導入、政党助成金の導入などを行った。

小沢一郎、そして羽田孜が目指した政治主導のヴィジョンは、当時の政界において図抜けたものであった。

そして、小沢・羽田の両氏が離党したことにより細川内閣が成立する。この細川内閣の中心と鳴ったのが「日本新党」である。

新党ブームとその残骸

細川内閣の首班である細川護煕が所属したのは、新党ブームで誕生したばかりの日本新党だった。そして、この日本新党には当選一期の若き議員たちが多数所属していた。

野田佳彦、枝野幸男、茂木敏充、海江田万里、前原誠司らの若手、特に松下政経塾を出身とする議員たちは細川内閣の政策立案の中心となり、その後の政界をリードした。

彼らは地盤があるわけではない。その為、法案策定に理想主義を持って望み、それが軋轢を生むことも多かった。

 

ともあれ、日本新党出身の議員はその後様々な形で要職を歴任し、そのDNAは与野党に受け継がれることとなった。

日本新党を母体の一つにする民主党もそうだ。民主党には多く官僚出身の議員がいた。彼らは自ら政策を書き、(日本新党出身の)前原執行部の時代には対案提出路線を目指した。

また、政権交代以降、鳩山政権時には政調や事務次官等会議を廃止するなど政治主導を明確に打ち出すも、「国家戦略局」 は企画倒れに終わり、機能することはなかった。 

内閣人事局の設置

内閣人事局は、第一次安倍政権時から検討されていた。その後「国家公務員制度改革基本法」 が福田内閣にて提出され、渡辺喜美大臣の低減などを盛り込み「官民人材交流センター」の設置などを加えて可決された。

これは当時問題になっていた天下りの防止などのため、という理由もあったが、2014年にこれが施工されて以降、著しく官僚の権限を弱めることになった。

 

これにより、内閣は官僚の人事権を握ることとなり、「政治主導」はここに大きく前進することになった。

真の政治主導に向けて

良い政治主導とは?

さて、ここまで政治主導の事例を見てきた。「良い政治主導とは何か」というと、これはシンプルである。国民の多くの同意が得られた政策である。

そもそも、なぜ政治主導が必要なのかといえば、それは官僚が選挙の洗礼を経ていないのに対して、政治家が選挙という民意をベースにした権力であるからだ。

 

つまり、政治主導とは「国民主導」の言い換えにすぎない。

 「政治主導」とは決して、政治家が自己の利益のために政策を実現することではない。政治家が高い政策理解力と国家のビジョンを有することを前提とし、国民の総意に基づいて省庁の既得権益を越えた政策を実現することである。

 

郵政民営化は圧倒的な国民の支持を受けた。小選挙区制の導入もそうだ。高校無償化や、直近で言うなら消費税率引き上げの先送りもそうだろう。

これらの政策は、個々の是非は別にしても、国民の総意に基づいて、省庁の反対を押し切って実現したものである。

政治主導の前提は、それが国民の高い期待に基づいた政策であることだ。

 

加計学園をめぐる問題

そもそも、岡山理科大学の獣医学部設置を巡って、政治家にビジョンはあっただろうか。

まず、獣医学部そのものの必要性も必ずしも国民の総意に基づいているとはいえない。足りていないのは地方の畜産を中心とした獣医であり、偏在の原因は待遇改善であるという声もある。

獣医業界の複数の関係者は「産業動物獣医や公務員獣医は多くの地域で不足しているが、ペット獣医は余り気味」と証言。全体として数は足りているとみる。 

畜産などの先端ライフサイエンスを研究するのであれば、京都産業大学の方が遥かに適しているわけで、今治市を前提にした理由はさっぱり伝わらない。

加計学園問題は「政治主導」なのか?

加計学園をめぐる問題は決して「政治主導」の問題ではなく、単なる利益相反をめぐる醜い争いである。

安倍総理は小泉首相を見習ってか、盛んに「抵抗勢力」と呼んでいるが、そもそも国民の多くが納得していない加計学園をめぐる説明を政府に求めることこそが、「政治主導」である。

 

政治主導とは、国民の十分な議論に耳を傾けた政治家の方が、密室で何かを決める官僚支配よりもいい、という前提に基づいているわけで、何か資料提出を求めても出さなかったり、まともに国会で議論をする気のない人がやったところでそれは「政治主導」を云々言うのは的はずれだろう。

安倍首相、その人自身が「抵抗勢力」であることを如実に表しているといえるだろう。

 

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