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今、国会で何が起きているのか? ― 与党議員と政府の発言から考えるガバナンスの崩壊

厳正な検査に支障を及ぼすため、過程の公表は差し控える

腰山謙介・会計検査院事務総局次長 衆議院財政金融委員会

 森友学園の問題に関する会計検査院の報告書に、検査院が試算した値引き額の記載を回避しようと財務、国土交通両省が協議した疑いがあるとの指摘について、検査院の腰山謙介事務総局次長は二十九日午前の衆院財務金融委員会で「一般論として、判断の公正を確保するため、検査対象から意見を聴取する」と述べ、検査院と両省との事前のやりとりを否定しなかった。

 政府から独立した機関が、事前に財務省と協議していた可能性を否定していない。

 

首相動静を見る限りお目にかかっていない

(安倍晋三総理大臣 衆議院予算委員会)

 

一国の総理が、自身の過去の行動の根拠を新聞の首相動静に求めるという異常事態。

 

これは委員がつくられたストーリーだと思う

(安倍晋三総理 衆議院予算委員会)

福山氏は、それ以前の時期に首相が認識していたことをうかがわせる、官邸幹部らの発言が記された複数の文書を示し、「みんな残っている文書だ。全く反証になっていない」と言うと、首相は「委員がつくられたストーリーなんだろう」と答弁。議場は騒然となり、審議は一時中断した。

 

膿を出すと言ったのは公文書を出すこと

(安倍晋三総理 衆議院予算委員会)

 公文書が膿だったという衝撃の事実

 

どの組織だって改ざんはありうる話

(麻生太郎副総理 ぶら下がり取材にて)

この日の会見で麻生氏は「大蔵省(財務省)に限らず、会社だってどこだって、ああいうことをやろうと思えば個人の問題だから、組織としてどうのこうのという意識で見ていない」と話し、組織ぐるみの不祥事を否定した。

 

改ざんのような悪質なものではない

(麻生太郎副総理 衆議院財政金融委員会)

森友学園をめぐる財務省の決裁文書の改ざんで、麻生副総理兼財務大臣は29日の衆議院の財務金融委員会で「書き換えられた文書の内容を見るかぎり、黒を白にしたとかいう悪質なものではないのではないか」と述べました。

 

データの不備は高プロに関係ない

(田村憲久元厚労大臣 取材に答えて)

 

与党筆頭理事を務める田村憲久元厚労相(自民)は記者団に「データの不備は高プロに関係ない」と説明。法案に定めた残業時間の上限規制を念頭に「一刻も早く長時間労働を是正しないといけない」と述べた。

  

野党から吊るし上げられたから厚労省が架空のデータを作成した

(橋本岳【前厚労副大臣】 ブログにて)

厚労省の教訓は、いくら要求されても、無い数字を無理に作って提出するようなことはしてはならない、ということでしょう。

 それは教訓ではなく、再発防止策を講じるべき問題なのでは。

 

努力はしたがどうしても四月二十八日のデータだけは発見できなかった

(大田財務省理財局長 衆議院財政金融委員会)

 

まとめ

日本がやばい。

(あとで追記するかもしれません)

加計学園問題の焼け跡に残るもの ― 「嘘をつくとそれを守るための嘘で、更に大変なことになる」というシンプルな教訓

 学校法人「加計(かけ)学園」は26日、愛媛県今治市への獣医学部新設をめぐり、2015年2月に加計孝太郎理事長が安倍晋三首相と面会したと記した県の文書についてコメントを発表した。当時の担当者に記憶の範囲で確認したとし、「実際にはなかった総理と理事長の面会を引き合いに出し、県と市に誤った情報を与えてしまったように思うとの事でした」としている。 

 もともとメモは外に出るものではない。学園側もまさか外に出るとは思ってもいなかったでしょうし、書かれたことを追及されるとも思わなかっただろう。学園側は停滞していた獣医学部設置の動きを進めるための材料に使ったのだろうが、大きな話になってびっくりしたのではないか。

 学園側は申し訳ないことをしたということを、新文書がオープンにされた時点でいうべきだった。コメントを出すタイミングが少しずれているように感じる。

 ただ、今回の件は学園側の情報発信が間違っていただけで、受信した愛媛県が攻められる筋合いは何もない。それより、新文書を材料にがんがんわめいた野党は、振り上げた拳を下ろしにくいだろう。

 「嘘をついた」ことを「情報発信が間違っていた」とするのはなかなか独特の表現だ。

焦点は、総理か加計学園、どちらが嘘つきなのかに絞られた

再三述べている通り、総理大臣の置かれた状況は支離滅裂であり意味不明である。合理的な説明がない限りは嘘をついていると判断せざるを得ない。

今回の件で、まずなにより、愛媛県が嘘をついていないことは明らかになった。ということは、加計学園か総理のどちらかが嘘つきということになる。

事実上、この時点で加計学園問題は政治的に決着した。総理が嘘をついているにせよ、加計学園が嘘をついていたにせよ、認可が不適切であったという結論は変わらない。

本来、加計学園が嘘をついているとした場合、総理大臣は激高して徹底して調査するべきだろうが、安倍総理はやはり友達思いなのだろうか、

総理の嘘と国家の崩壊

この問題は簡単にいえば「総理大臣が嘘をついてしまったがために、それをみんなで必死になって隠しているうちに収拾がつかなくなってしまった」ということになる。

総理が「1月20日以前は知らなかった」と言ってしまったがために、今回の加計学園のコメントについても、「担当者の記憶違いでそういう発言をしてしまったが、総理に確認したところそういうことはないということだったので問題ない」という発言ができなくなっている。

つまり、面会していた柳瀬秘書官も全くこの点について確認しなかったということになってしまうわけだ。

また、このような発言が加計学園から出てくることは愛媛県の発言や文書の信憑性を裏付けることになり、「総理案件」という言葉が実際に発言されたことの一定の裏付けとなっている。

はじめのうちの嘘は、まだしも理屈になっていたが、すでに政府の論理は誰一人として収拾がつかない状態になっている。

加計学園問題は、結果的には自民党の多くの議員を傷つね、党にも回復不可能なダメージを与えた。

仮に今国会が閉幕しようとも、もはやこのイシューは闇に葬られるには大きくなりすぎてしまった。

自民党議員の中でも、撤退を見据え曖昧な答弁をする議員はいるが、真実を捻じ曲げ総理をかばってくれた忠実な自民党議員の威信をボロボロにして、最後は誰かが責任を取ることになる。

安倍総理と自民党にとって自らを傷つけない最良の選択肢は、今すぐ総理がなにか別の理由をつけて辞任をして、数年間は公の場に姿を表さないことだろう。

しかしながら、今辞任してしまえば後任者、とりわけ有力候補の石破氏や岸田氏は、本件に対してより現実的な、つまり加計氏の証人喚問や真相究明のための委員会設置などの対応を取る可能性がある。

そのようなことを考えれば、安倍総理は今やめるわけには行かない。しかし、総理が辞めない以上自民党議員も、このデス・レースに参加せざるを得なくなる。

危機管理能力の無さを露呈した自民党と安倍政権

この問題を見ていると、旧民主党が起こしたメール事件を思い出す。

堀江メール問題 - Wikipedia

それは、(一部の保守系言論人が言うように)愛媛文書が捏造だからということではなく、執行部が代表の歯止めたり得なかった結果、大きく党が傷ついたという点だ。

参院選に敗北した後に辞任を否定した第一次安倍政権と、希望の党が衆院選で大敗した後に代表を辞任しなかった前原誠司代表、どこか共通する点がないだろうか。つまり、危機管理能力に欠け、損切りができない、という点だ。

 

安倍総理は政治的な権力を失った時点で、極めて難しい立場に立たされるだろう。これほどまでに嘘が積み上がってしまった後に、その真相が明らかになれば。

そして、残念ながら、総理のご友人である加計孝太郎氏と、加計学園の立場も極めて難しくなるだろう。

しかしそれは仕方ない。適切なタイミングで身を引かず、掛け金を吊り上げたのは、総理自身なのだから。

我々がこの一年に及ぶ政治的茶番から学ぶことができたのは、嘘をつくということは国家のガバナンスを致命的に崩壊させる、という古典的教訓だったと言える。

自民党はデータと事実を捨て、近代国家を放棄する覚悟があるか ー 高度プロフェッショナル制度の委員会採決を巡って

この記事はかなり長い。それを断った上で、憲政史上最悪とも言える、厚生労働委員会の採決に至るまでの経緯を説明したい。

この経緯は実況していただいた、法政大学の上西教授のツイートを引用している。

 

さて、5月25日、すでに不適切なデータが見つかっていた高度プロフェッショナル制度を審議する衆議院・厚生労働委員会において、再び不備が見つかった。

採決を予定していた当日の朝だ。

厚生労働省は25日の衆院厚労委員会理事会で、ミスが相次いで発覚した労働時間調査について、野党側の指摘で新たに6事業所で二重集計するミスがあったと報告した。

そのような中、厚生労働委員会が開かれた。

 

厚生労働委員会(立憲民主党・西村智奈美)

午前中、まず維新の議員が質問をした後、共産党の高橋議員が限られた時間の中に質問をした。その後、西村議員。

 こうして、加藤大臣に対する不信任が出された。

 

厚労大臣不信任に関する趣旨説明(立憲民主党・西村智奈美)

西村議員が、再び本会議にたち、不信任の理由を説明した。

 不信任理由

 過労死遺族の声

捏造が何故起きたのか?

この答弁は二時間にもおよび、途中、西村議員が過労死遺族の声を紹介して声を詰まらせる場面もあった。

不信任は反対多数で否決され、議論は再び委員会に引き戻された。

 

驚天動地の委員会採決(国民民主党・岡本充功)

www.youtube.com

そして、議論の場は委員会に戻る。ここでも何人かの議員が質問に立ったが、岡本充功議員の質問の最後にそれは起こった。

これはぜひ、雰囲気を理解していただくためには、実際に動画を見ていただきたいところである。

(「紙を出せ」、という野次)

 (「整理しなきゃいけないんじゃないか」という野次) 

驚天動地の採決へ

 これで採決である。

 

データは間違っていた。朝にも分かっていたことだ。そして、そのデータがどのように間違っていたか、の書類が出ていない。その中で採決が行われる。誰か理解が出来るだろうか?出来るならやってみて欲しい。

私も国会を見て長い。けど、はっきり言ってぶっちぎりで最悪の採決だ。これより酷い採決というのはちょっと想像できない。

持ち時間が来ているから、という理由で「質疑は終了しました」と宣言する委員長もひどいし、間違っていた資料を提出していたのに、修正した資料を出さずに間違いを口頭で答える、というのも言葉を失う話だ。

また、自民党・田村憲久理事の「データの不備は高プロに関係ない」という発言は、語るに落ちる部分がある。データがどうであれ法案を通すということだ。データをもとにした意思決定ができないなら、どんなデータも紙くずに過ぎない。占星術か卜占で全部決めればいい。

事実に基づく意思決定は、近代の最低条件

近代とはどういう時代であったか。それは、ルールの確立と科学の浸透の時代であった。呪術的な権力を保持していた王政が打倒され、市民革命が起きた。

近世に始まった科学が更に浸透し、迷信や宗教的にタブーとされていたことが次々と覆り、明るい光が当たった時代だ。

地球は太陽の周りを回り、人間は猿から進化し、ハンセン病は前世の因縁ではなくマクロファージによるものだとわかった。

科学は、全てを事実に基づいて判断する。それがどれほど今までの見解と違っていても、実験によって証明されなければ科学ではない。

すなわち、近代的思考とは科学的思考であり、科学的思考とは、事実を直視する思考なのだ。

近代国家とは、まさに事実に基づいて政策を意思決定することによって成り立っていた国家だったはずだ。

 

今日の委員会採決において政府が行ったことは、事実に基づいて意思決定をする、という近代国家の最低条件を満たしていなかった。すでにある結論に向け、事実を捻じ曲げたのだ。

これほどまでにデータやファクトが軽んじられたことは、立法府において、私の記憶する限り一度もない。

我々はよく知っている。戦艦を沈めたはずの爆撃機が、実は小舟一つ沈めていなかったことを。そして、その結果日本がどのような煉獄に突き進んでいったか、ということを。

事実を直視できない国家がたどる末路は常に哀れなものだ。だからこそ、近代国家はまじない師の言葉ではなく、常に事実に基づき物事を合理的に決めてきたのだ。

近代を捨てる覚悟を問う

高度プロフェッショナル制度の法案自体の酷さは言うまでもない。

しかし、その採決に至る経緯は、我々が近代国家として守ってきたはずの、最低条件たるデュープロセスをずたずたに引き裂くものだった。 

与党の一人一人の議員は、今まさに、日本が近代国家としての最低条件を、自ら投げ捨てていることに気がついているのだろうか。

大正デモクラシーのあとに何が起こったのか。それを我々はよく知っている。

 

与党と維新の議員の一人ひとりに対して、近代を放棄する覚悟があるのか、問いかけたい。

我々は今、歴史の際(きわ)に立っている。

杉田水脈・長尾敬・伊佐進一 ー 過労死遺族を馬鹿にし続ける、高プロ法案と議員たち

5月24日の厚生労働委員会。

この日の委員会は、寺西代表を初めとした過労死ご遺族会の皆様が、安倍総理に自らの声を伝えようと傍聴に訪れていた。

その声を、実際に柚木道義議員が紹介され、安倍総理に対して、過労死遺族と面会するように迫ったが、総理は「厚労大臣が会う」と相手にしなかった。

過労死ご遺族が、高度プロフェッショナル制度に強く反対し、削除を求めていることは既報のとおりだ。

 

与党議員の反応

さて、この委員会質疑と、その後の本会議の厚労委員長解任決議に対して、自民党・公明議員から様々な反応があった。

この馬鹿は自分が何を発言しているのか理解しているだろうか。

「高度プロフェッショナル制度反対」とはっきり過労死遺族会は明言している。 (ああそうか、大臣がその訴えを削除したから、その発言はなくなったと勘違いしているのか?)

その声を国会で代弁することが、「パフォーマンス」というのは、どういう意味なのだろうか?

あなたが馬鹿なのは十分わかった。でも、人が死ぬような話、しかも、大事な家族を亡くしたご遺族に関連付けてこのような発言をするのはやめろ。

「昼も夜もなく24時間、休み無しで働けという業務命令が合法となる制度」で、「完全な規制の撤廃であり労基法の破壊」

高プロで働く労働者には、働き方の裁量がないため、「裁量労働制より悪い」。成果に応じた賃金が支払われる保証も「(法案の)どこにもない」

娘を亡くした佐戸さんは、声を震わせながら、次のように訴えた。

 

さらに、この日の質疑に出席していたはずの長尾・伊佐の両議員は、まるで過労死遺族の声がそんざいしなかったかのように「野党はモリカケばかり」という変わらない揶揄を続けている。

人間はどこまで品性下劣になれば気が済むのだろうか。自らの尊厳を捨ててまで、議員バッジは守りたいものなのだろうか。

人の生死に関わる法案で、しかも過労死のご遺族が出席した委員会を表して、このような揶揄が出来るのは、外道という他ない。

長尾、伊佐には議員バッジのレプリカを差し上げよう。二度と国会に姿を見せないでいただきたい。一生、その玩具で遊んでいればいい。

 

人の世の政治を取り戻す

▽18時28分 東京・銀座の日本料理店「東京吉兆」。伊藤一郎旭化成会長、経団連の今井敬、御手洗冨士夫両名誉会長ら財界人と会食。 

高プロ採決を予定していた当日、遺族と一切会うこと無く、経団連と会食する安倍総理。

そして、自らの大事な大事な議員バッジを守るため、人としてのまっとうな生き方を捨てた長尾、杉田、伊佐。

全員まとめて、政治家ごっこを辞めて、その品性にふさわしい余生を過ごせばいい。

我々国民は、あなた方には殺されない。その言動はすべて否定され、政治的痕跡はチリひとつ残らないだろう。

 

人の世の政治は人がなす。畜生が座る席は立法府にはない。

政治家・安倍晋三とは何者なのか ー 嘘つきが我が国の総理大臣である事実について

newspicks.com


 

愛媛文書を巡るニュースを聞いていると、コメンテーターの方がそろって「一体誰が嘘をついているんでしょうね」と首をひねっている。

が、度々述べているとおり、「安倍総理は嘘をついているかどうか?」という論点はもはや意味を持たない。安倍総理が虚偽を述べていることは明白だからだ。

「問題は、嘘をつくような人間が、果たして総理大臣としてふさわしいのだろうか?」という点であり、それを議論しなくてはいけない。

 

客観的に、いま判明していた事実を述べる。

  • 柳瀬総理秘書官は加計学園の関係者と三回も面会し、時に会談は長時間に渡った。
  • 柳瀬氏と加計氏が出会ったのは総理主催のバーベキューである。
  • 総理と加計氏は第2次安倍内閣以降、16回会食している
  • 安倍総理は加計氏を評して「時代のニーズに合わせて新しい学部・学科の設置にチャレンジしたいと聞いている」と祝辞で述べている
  • 総理と加計市は腹心の友である

一方、安倍総理はこうも述べている。

  • 具体的に獣医学部を作りたいという話は聞いたことが無い
  • 柳瀬氏と加計学園、加藤官房副長官と加計学園の会合は聞かされていない

安倍総理の答弁と、客観的な状況は明白に矛盾している。

このような状況で獣医学部を作りたいということを聞いたことはなかったとすると、これに対する合理的な説明が必要なことは明らかだ。

 

(6)関係業者との接触等

倫理の保持に万全を期するため、①関係業者との接触に当たっては、供応接待を受けること、職務に関連して贈物や 便宜供与を受けること等であって国民の疑惑を招くような行為をしてはならない。

https://www.cas.go.jp/jp/siryou/kihan.pdf

 この論法が通るなら大臣規範なんて必要ないのである。 「確かに利害関係者と会食もゴルフもしたが、そのような話はしていない」で通せばいい。

そこで何を話したかということは、証明しようがないわけだから、そんなことを論点にすべきではない。

下世話な話ではあるが、普通、既婚者が異性と一定時間密室に入れば不倫が認定される。「一晩中ホテルでトランプをしていました。そうじゃないことを証明してみろ、これは悪魔の証明だ」などと反論したらこの人は正気じゃないと思うだろう。

利害関係者と何度も接触し、また自身の秘書官と接触させた、という事実は状況証拠ではなく直接証拠なのだ。

 

愛媛県から参議院に提出された文書は、公文書である。公文書というのは基本的に100%信頼されるべきものだ。だからこそ、財務省の改ざん問題があれほど大きな問題になった。

この真偽に対して政府はコメントする立場にない、としている。

しかし、本来公文書を否定するのであれば、きちんと反証しなくてはいけない。雰囲気で事実だけを否定して、反証せず「コメントする立場にない」と言うのはおかしな態度なのだ。

このように、公文書の信頼性と国会答弁の信頼性を著しく落としているのは安倍総理の責任である。

 

普通、どれほど支持していた政治家であれ、嘘をついているとわかったなら覚めるものだ。

しかし、安倍総理を支持する層の多くは、総理が言っていたことが事実ではなかったという現実にぶち当たった時、自身の認識を上手く調整することで、総理の無謬性を守っているようにみえる。

このような態度は、既に信仰の領域に入っているのではないか。私もTwitterなどのやり取りやコメントなどの反応を見ることもあるが、はっきり言って彼らのロジックは全く理解ができない。

通常我々が社会的に有している認知では、安倍総理の答弁が嘘ではないと判断することは不可能だ。そう考えるためには、通常と異なる認知を持つ必要がある。

「大川隆法総裁(エル・カンターレ)は全宇宙の創設者である」と信じるのと同じ程度特殊な認知を持たない限り、安倍総理の答弁から、彼が真実を述べていると判断することは不可能だろう。

 

もう一つ、私が気になることがある。安倍総理が「記録を確認したところ、加計孝太郎氏と会ったことは確認できなかった」と述べたことだ。そもそも記録を破棄していると述べたのはご自身である。(その後、「確認できなかった」というのは破棄していたことだ、と官房長官がのべていたが)

嘘つきであることは問題であるが、同時に総理の嘘はすぐばれ、すぐに新しい証拠が出される嘘であるということも問題ではないか。

これは、もう、単なる嘘つきではなく病的な嘘つきである。病的な嘘つきでも総理大臣が務まる、と考えるのは、政治思想ではなく、社会規範を逸脱した信仰である。

 

このような事実は、この国を愛しこの国に生きるものの一人として、大変に辛い事実として受け止めなくてはいけないのではないか。

これは、正しい意味で議会政治と民主主義の危機である。

女性参政権前夜 ー 普通選挙の前、議会で一体何が語られていたか

努力義務だけではあるが、候補者男女均等法が成立した。小さい一歩かも知れないが、画期的な一歩だと思う。まずは超党派の議員の方々に敬意を評したい。

 

ところで、これに対し、自民党の小野田議員が下記のような発言をしている。

 

候補者が男女同数になるべき、シンプルな論理 

日本国憲法第十四条には下記の文言がある。

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

 

「差別されない」とは、当然の前提として両者の能力が同等である(≠同一)と規定している。即ち、男性と女性の間に本質的な意味での能力の差はない、というのが大前提だ。

 

つまり、男女の候補者に差があるという現状は、憲法上の男女平等の理念から著しく乖離している、ということになる。能力的に差のない男女の間に、差があるとすれば、それを正していかなければならない、ということだからだ。

という現状を踏まえた上で、今回は理念法が提出されている。小野田議員は、女性が立候補しづらい 現状は認めておられていて、更にこの法案が理念法であることも(流石に)理解されているはずだ。

 

今回の法案には下記の文言がある。

男女が、その性別にかかわりなく、相互の協力と社会の支援の下に、公選による公職等としての活動と家庭生活との円滑かつ継続的な両立が可能となることを旨として、行われなければならない

これはまさに、小野田議員がおっしゃったような現状を変えていくための理念法である。憲法上の前提と著しく乖離した現実を正すため、より女性が立候補しやすいよう環境を整えることに反対することは、正直言って理解できない。

 

女性参政権と女性議員

普通選挙の前まで、一体婦人参政権はどのように語られていたのか、という点を見てみる。

昭和二十年。敗戦後、ポツダム宣言を受諾したあとの帝国議会の議事録だ。当時の幣原内閣の元、婦人参政権についての話し合いがなされている。

  

山隈康元貴族員議員

都會の婦人は相當政治的教養のある方もあるやうでありますが、多くの婦人は今日選擧權を與へらるるよりも寧ろ一片の「パン」、一塊の薩摩芋を貰つた方が非常な幸福であると叫んで居るのであります。

從ひまして此の婦人は衆議院議員選擧に臨む際、恐らく先刻どなたかの質問にありましたやうに、多くの棄權者を出し、又棄權者を出さないと致しました處で、有夫の婦は亭主の命令に依り、又其の他の子女は父兄の指圖に依つて投票する現在の一般婦人の状態に於きまして、候補者の閲歴、才幹等も何等關係しない、甚しきに致つては候補者の氏名すら承知しない者が大部分であらうと思ふのであります。

斯樣な状態、即ち亭主の命令、父兄の指圖に依つて投票を行ふ、自己の自由意思に依つて投票をなし得る者と云ふものは極めて稀であらうと思ふのであります。

 

昭和20年12月13日 ー 衆議院議員選挙法中改正法律案特別委員会

堀切善次郎大臣

何と申しましても矢張り婦人は單純であり、率直である點(てん)があると思ひます。さう云ふやうな頭で判斷することが又宜い場合も相當多いのではなからうかと思はれます。

 

固より婦人の投票の大部分は矢張り亭主のある婦人でありますれば、夫婦仲良く多分同じ所に行くことだらうと思ひます、或(あるい)は娘達は其の家の家長の、否父兄の話す所を聽いてそれに左右されて同じやうに行くと云ふことが大部分ではないかと思ひます。

 

此の間或地方の婦人達が集つて、婦人の投票がどうなるだらうかと云ふ話をした際に、皆の一致した意見としての觀測は、此の儘でうつちやつて置けば、棄權が五割位になりはしないか、殘りの五割の内四割は主人なり父兄と同じ投票になるだらう、五分は女の方が男を引連れるだらう、後の五分がどうなるか分らないと云ふやうに意見が一致したと云ふことを聞きまして、非常に興味のある話に聞いたのでありますが、大體そんな所ではないかと云ふやうな感じが致します。

昭和20年12月13日 ー 衆議院議員選挙法中改正法律案特別委員会 

堀切善次郎内務大臣の発言より(句点、改行を一部変更しました)

 

実際、普通選挙実施までにはこのような声があったのは事実だ。幣原内閣ではかなりの議論がかわされている。

しかしながら、実際は女性を含めた第一回衆議院選挙の投票率は概ね好調だった。

 

大石ヨシエ議員

私たちは、敗戰の結果、婦人参政権をマ元帥からもらつた。それは一昨日も申しました通り、長い間婦人は奴隷的な存在であつた。それが昭和二十一年四月の十日初めて婦人が、敗戰の結果、参政権を獲得して、投票権を持つた。そうして自分の信ずる人に票を入れたんです。

昭和27年04月28日 衆議院・地方行政委員会

 

大石議員は初の女性議員の一人であるが、「マ元帥からもらった」と評している。

また、普通選挙後に組閣された片山内閣では、女性大臣の要求が行われている。これも画期的なことだった。

 

吉川末次郎参院議員

片山首相は先般ラジオを通じて全國の婦人に呼び掛けられて、婦人の政治的自覚を促されたのであります。結構であります。併しながら同時にそういうことは、男子に対しまして婦人を人格的に尊敬するということを教えるということを相伴わなければならないものであると考えておるのであります。

婦人を政治的に、社会的に、経済的に、男女同権の立場からこれを尊敬し、これを重要とする所の観念が、この組閣の問題については少しも現われておらないと思いますることを私は深く遺憾といたすのであります。

封建的な、相変わらず封建的な男子中心的な観念から、そういう適任者はおらないと、こういうように簡單に、無礙に退けられたのではなかつたかというようにも考えるのであります。

昭和22年07月02日 参議院本会議

 

ところが、女性議員の地位向上は遅々として進まなかった。そのことは「国会キス事件」からもわかる。

 

そして、その比率もまた、ほとんど増えていないのだ。 


「女性は単純」と議会で話し合われていた時代から、我々が少しでも進歩していると信じておきたいと切に願う。

加計孝太郎氏と安倍総理 ー その友人関係は本物か?

予算委員会における、首相や与党の言い分を改めて見てみよう。

  • 柳瀬氏と加計学園の出会いは、安倍総理主催のバーベキューだった。
  • 柳瀬氏は加計学園の関係者と複数回、時に長時間に渡って面談していた。
  • 安倍総理は、加計学園が国家戦略特区に申請していたことは、全てが決定するまで知らなかった。

加計氏と安倍総理は、本当に友人関係にあるのか

安倍総理の言っていることを真実とするなら、自分が全く知らない間に、友人が勝手に自分の秘書官と話し、秘書官からアドバイスを受け、自分のビジネスに利用し、それに対して一言も相談がなかった、ということになる。

上記は安倍総理の言い分そのものである。

 

ここで、安倍総理が真実を述べているとすれば、この状況について、唯一説明が出来る仮説を提示しよう。

そもそも、加計孝太郎は総理を友人だと思っていなかったのではないか。そして、相談することは、むしろマイナスになると考えていた。

友人ならば相談の一つもしているだろう。プライベートだから迷惑をかけたくない、というならそもそも総理秘書官と会おうとしないはずだ。

 

加計氏が必要としていたのは人間・安倍晋三との友情ではなく、総理大臣という地位を持った人間との深いコネクションだけだったのではないか。

安倍総理が真実を語っているとした時の仮説

加計孝太郎氏は、総理との個人的関係を誇示して、バーベキューで知り合った、柳瀬首相秘書官とのアポを(安倍総理に報告することなく)取り付けた。

その際(どうやったのかはよくわからないが)とにかく総理にこの件を報告しないように言い聞かせた。

「本件は問題になるかもしれないから、決して安倍総理に報告しないように、俺から言っておくから」などとと言い含めた。そうでなければ、柳瀬氏が総理に報告しない理由は想像できない。

 

もしこの仮説をとるならば、つまるところ、友人だと思っていたのは安倍総理の側だけであり、加計孝太郎氏は安倍総理を単なる利用できる駒だとしか思っていなかった、ということになる。

なんという悲しい話だろうか。まるで「マッチスティック・メン」の世界である。

私がもし、自分が学生時代からの友人だと思っていた人間が勝手に秘書と会って、しかも信頼していた秘書が勝手に「総理案件だ」などと言っていたら、裏切られたと思って気が狂わんばかりになるだろう。

安倍総理の叫び

安倍総理は度々国会で「彼は私との関係を利用して、何かを成し遂げようとしたことは一度もない」と言っていた。

私はこの言葉に強い違和感を覚えた。なぜなら、友人関係というのは通常そういうものであり、そんな言葉は「彼は私を利用しているのでは」と疑っていない限り出てこないからだ。

「何かを成し遂げようとする」かどうかは、便宜を図る側にはわからない。言うべきなのは「私は彼に何か便宜を図ろうとしたことはない」という言葉ではないだろうか。

 

この仮説が真実であるとすれば、総理の「彼は私との関係を利用して、何かを成し遂げようとしたことは一度もない」という言葉は、荒涼とした総理の精神風景から来た叫びなのではないだろうか。

安倍総理のセキュリティホール

いずれにせよ、上記はただの仮説である。

しかし、安倍総理がこの件を相談されていようがなかろうが、加計氏が総理との個人的関係を使って岡山理科大学獣医学部の建設をもくろんでいたことは確かだろう。

籠池氏は安倍昭恵夫人というセキュリティホールを利用して学校建設を成し遂げようとしたが、加計氏が利用したのは、総理の心のセキュリティホールだったのではないか。

自分の周りにいる人間は、結局のところ利害関係でしかつながっていなかった……そんな絶望を食い止めようとした叫びが、安倍総理の国会答弁だとしたら、私はそれに対して、深い悲しみを感じざるをえない。

 

総理大臣が、自ら主体的に加計氏に便宜を図っていたとすれば、上記のような悲しい想像はしなくてすむ。

私としてはそのほうがよほど、気分が楽なのだが。

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「国会キス事件」と麻生・下村セクハラ発言 ー 大蔵大臣が働いた性的暴行の顛末から考える

麻生太郎 副総理兼財務相 「はめられて訴えられているんじゃないかとか、ご意見はいっぱいある」

下村博文 元文科相 「隠しテープでとっておいてね、そしてテレビ局の人がですね、週刊誌に売るっていうこと自体が、ハメられてますよね。ある意味で犯罪だと思うけど」

麻生大臣や下村元大臣が、かくの如き発言をした約70年前、「国会キス事件」が起きたことを皆さんはご存知だろうか。

これは、当時の大蔵大臣(今の財務大臣にあたる)である泉山三六氏が、国会内で飲酒をして(当時は認められていた)、参議院議員である山下春江氏に対してキスしようと暴行を働き、挙句に噛み付いて怪我をさせたというとんでもない事件である。

一体、この問題に対して、日本の立法府はどのように対処したのか、今回は議事録からその顛末を見ていただきたい。

 

昭和23年12月13日の衆議院本会議より。

山下春江君

本日午後六時ごろ(発言する者多し)午後六時ごろ、私ども大藏委員は、大藏委員会にかかつている法案の通過をスムースにするために大藏大臣の招宴がありました。その席上、泉山大藏大臣は泥酔いたし‥‥


〔「資格がない」と呼び、その他発言する者多し〕


議長(松岡駒吉君)

靜粛に願います。


山下春江君(続)

私に向つて、廊下に出ることを、彼は暴力をもつて強要いたしました。私も相当な力は持つておりますけれども、泥酔せる男子にはかないません。そこで、彼は暴力をもつて私を参議院食堂の外の廊下に引出しました。そうして、彼の行いました行動は‥‥


〔「恥を知れ」と呼ぶ者あり〕

驚くべきことに「恥を知れ」というのはこの山下議員に対する野次なのだ。

議長(松岡駒吉君)

靜粛に願います。

山下春江君(続)

私が恥を知らなければならないことを、私はここに断言いたします。私に向つて恥を知れと言う民主自由党に、私はあえて申します。大藏大臣に向つて私は申します。今晩あなたは泥酔して許される立場の人でない、そのあなたが何をなさんとするか。そんなことが何で今晩必要なんだと彼は申しました。私に恥を知れと言う前に、綱紀粛正を呼ぶ吉田内閣の恥を知らしめんと、私は立つたのであります。(拍手)


この追加予算が今夕通過するかしないかは、先ほど榊原女史が言つた通り、全國のこの公務員法に縛られた全官公二百万が、かたずをのんで待つている。この今夕、その当の責任者である大藏大臣が泥酔して、そんなことが何だ、おれは君が好きなんだという言葉が、どうあれば吐けるのですか。(拍手)綱紀粛正とは、一体全体どこなんでしよう。


〔発言する者多し〕


議長(松岡駒吉君)

靜粛に願います。山下君に注意します。一身上の‥‥


〔発言する者多し〕


山下春江君(続)

私はあえて申します。かくのごとき世界の注視の的であるこの追加予算の通過せんとするまぎわにおいて、保守反動と呼ばれる民主自由党内閣が、せつかく全國から選ばれたる女性の代議士をかくの如く扱いますることをもつて、世界は保守反動の党と言うのであります。


議長(松岡駒吉君)

一身上の弁明の範囲において発言せられんことを‥‥


山下春江君(続)

これを説明しなければ、一身上の弁明はわかりません。かくのごとき行動をとつた、これが私の一身上の弁明です。かくのごときことをこの壇上において言わなければならない日本國会の婦人代議士が、いかに侮辱されておるかを、満場の皆様は熟知されたでありましよう。こんなことで、日本の民主主義がどうして行われるのか。そういう吉田内閣によつて、このせつぱつまつた國会が動かされるのか。いかに日本國民が不幸であるか。


私は、泉山大藏大臣に侮辱された一身上の弁明を終え、同時に、かくのごとき内閣によつて、このせつぱつまつた國会が運営されておる日本國民の不幸を絶叫して、降壇するものであります。(拍手)

 

さらに、昭和23年12月14日懲罰委員会より抜粋。山下春江議員の発言。

しばらくして泉山大藏大臣は來られたのでありますが、何でも二、三ばいお酒を飲まれたと思うころ、そこに給仕に参りました食堂の女中を、首の所を何か抱きかかえたようなかつこうをして、これは私のたいへん好き――と言いましたか、愛しておると言つたか、何でもそういう婦人だから御紹介いたしますということを申しておりました。 

泉山さんはもうこんな所はつまらないからほかへ行こう、こういつて私の右腕をつかんで立たせようとしました。私が立たなかつたために、いすが横になりまして倒れそうになつたので、私は立ちました。立つたとたんに彼は非常な力を出して私を廊下の方へ連れ出したのであります。

それに反抗したのですが、かなり力のある人で廊下のまがつたところの階段におりるまん中辺まで來て、何をするんですかと言つたところが、やかましいことを言わないでも、ここにはだれもいないよ、こういうことでした。

泉山さんの力はかなり強いのと、その言動、行動が非常に狂暴なものがありまして、しかも私は日本の大臣がこういう行いをなすであろうかということを想像されないような、まことにここで発表することは泉山さんの人格の上からも、私自身も口にいたしたくないような行動を彼はとりました。

そこで私はやむを得ず、彼の力まかせに抱きしめておる中ですから、あちらこちら頭を振りまわしておる間に、私の左あごのところに今傷がついておりますが、彼が多分私の皮膚が切れたのではないかと思うほど非常にひどくかみつきましたので、思わず私は右の手で彼をなぐりつけました。それでやや手がゆるみましたので、私は抱きかかえておる手の下をもぐつて、私はもとの参議院へ帰つて行きました。

これはもう、セクハラというレベルではなく、性的暴行である。しかし、この発言に対して、なぜか山下議員の態度を問う質問があった。

鈴木(仙)委員

山下さんの平素の行為、そのときほんとうにやさしい婦人代議士として典型的な態度をとつておられたかどうか。 

明禮委員長

それからもう一つお尋ねいたしますが、あなたはどのくらい酒を召上りますか。

〔「いらぬことを聞くな」と呼び、その他発言する者あり〕

 

明禮委員長

参考に聞いておるのです。どのくらい召上りますか。

高橋(英)委員

小さいコップですか。


山下春江君

そうです。ウイスキー・グラスのちよつと形のかわつた小さなグラスです。


高橋(英)委員

あなたがおさしになつたのではないのですか、立て続けに……。


山下春江君

断じてありません。

高橋(英)委員

この泉山さんと山下さんは、非常にお心やすいじやないかと聞いたのですが、先ほどの話ではそうじやなかつたのですか。泉山さんに対するあなたの呼びかけは「三六さん」というようにお言いにならなかつたですか。

 

山下春江君

断じて私は大臣に向つて、さような無礼な言葉を使つた覚えはありません。

最終的に、このあと野党は全面的に審議を拒否、泉山三六大蔵大臣は引責辞任と議員辞職に追い込まれた。

さて、結局、彼は、このあと失意の晩年を過ごしたのだろうか?

 

そうではなかった。泉山氏はかえって人気を博し、参議院議員で全国三位の得票数で当選し、十二年もの長きに渡り参議院議員を務めた。

なんと「トラ(泥酔する)大臣」を自称して、本まで出しているのだから、人間の面の皮はどこまで伸びるのか、想像を絶するものがある。

トラ大臣になるまで―余が半生の想ひ出 (1953年)

トラ大臣になるまで―余が半生の想ひ出 (1953年)

 

 一方、山下議員は「隙があった」と批判を浴び、更に、大臣を誘ったのではないかというデマも流布されたようで、落選の憂き目に合う。

作家、宮本百合子もこのように書いているが、これが世間の大半の反応(いや、女性がこう書いているということは、おそらくそれ以上)であったことが推測される。

山下春江代議士の日ごろの態度にもすきがあったことはたしかでしょう。婦人代議士があれほど、「婦人の問題は婦人の手で」といって立候補しながら議会開会の全期間をつうじてその議場の演壇からもっとも雄弁にうったえることができたのが今日の醜態事件についてであるということは、またブルジョア婦人代議士の悲惨なる境遇をものがたっています。

泉山問題について

残念ながら、性的暴行の加害者が免責され、被害者の態度などに矛先が向く、という風潮は、この七十年の間ほとんど変わっていないことがわかる。

普通選挙が施行され、女性初の閣僚が誕生し、野党第一党の党首や衆議院議長などにも女性が就任した。女性議員の数もほんの僅かではあるが増加しつつある。

それでも、何か問題がある時に、被害者の態度などに原因を求めるという風潮は、一切変わっていない。

我々は七十年間で歩みは遅くとも進歩している。そう書きたいところではある。流石に今こんな暴行があれば、二度と政界復帰は出来ないだろう。しかし、昨今の麻生大臣の発言を見ると、その僅かな歩みすらも陽炎の如き幻想であったのではないか、という思いが強くなる。

 

改めて、本会議での山下議員の演説を載せておく。

かくのごときことをこの壇上において言わなければならない 日本國会の婦人代議士が、いかに侮辱されておるかを、満場の皆様は熟知されたでありましよう。

 

こんなことで、日本の民主主義がどうして行われるのか。そういう吉田内閣によつて、このせつぱつまつた國会が動かされるのか。いかに日本國民が不幸であるか。 私は、泉山大藏大臣に侮辱された一身上の弁明を終え、同時に、 かくのごとき内閣によつて、このせつぱつまつた國会が運営されて おる日本國民の不幸を絶叫して、降壇するものであります。

「認める方向で調整」という与党の検討が新聞に堂々載るという異常事態について

 加計学園の獣医学部新設をめぐり、与党は、柳瀬唯夫・元首相秘書官が2015年4月に首相官邸で学園関係者らと面会したことを認めることで国会の正常化を図る検討に入った。大型連休明けに柳瀬氏の国会招致を立憲民主党など野党6党に提案して審議復帰を呼びかける考えだ。

 柳瀬氏が学園関係者との面会を認めれば、安倍晋三首相の友人が理事長を務める学園の獣医学部新設計画を首相側近が早くから知っていた可能性が出てくる。学園の計画を初めて知ったのは17年1月20日としてきた首相のこれまでの答弁も揺らぎかねず、「加計ありき」との批判が再燃することは避けられない。 

 ※よく考えると答弁ではなかったのでタイトルを修正しました

 

 

 この報道が出たとき、何よりまず驚いた。「与党が認める方針」などと言う言葉は、どういう理屈で出てくるのだろうか。

 この報道は「政府が嘘をつかせるように柳瀬氏に指示していたが、どうも隠しきれなくなったので認める方針になった」という以外、読みようがないので、もし事実でないとするなら、とりあえず政府は抗議した方がいいのではないか、と一応ご助言しておく。

 

 記憶を調整したり、事実を認めたり認めなかったりすることを堂々と「調整」するのは、相当異常な事態である。

度々引用するジョージ・オーウェルの「1984」に、このような一説がある。

過去は変更されるだけではなく変更され続けるのだ。

最も彼を悪夢のように苦しめることは、なぜそんな大規模な詐欺行為がおこなわれているのか彼には全く理解できないということだった。

過去を改ざんすることの直接的な利点は明らかだったが根本的な動機は謎に包まれていた

 

The past not only changed, but changed continuously. What most afflicted him with the sense of nightmare was that he had never clearly understood why the huge imposture was undertaken. The immediate advantages of falsifying the past were obvious, but the ultimate motive was mysterious. 

 私もこの主人公、ウィンストンに全く同感だ。これは異常であり、この異常な対応をしてまで何をしたいのか、私には全くわからない。

 このような異常事態が、あたかも「あー、ようやく認めたのか」程度にしか受け取られなくなっていることに、強い危機感を感じる。

 これは、決して普通のことではないのだ。麻痺してはならない。

 

 いずれにせよ、柳瀬氏が極めてハードな努力によって記憶を取り戻すことに成功していたにせよ、あるいは客観的状況からそれを認めざるをえないということを認めたにせよ、それが意味するのは我々はやはり記憶というものを当てにしてはならないということであり、政府の文書管理の責任が大きく問われるということになるだろう。

  歴史は文字によって紡がれるべきである。決して曖昧で都合のいい記憶ではなく。