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「野党は批判ばかり」「野党は経済を語らない」と言っている間に、書類は隠蔽されデータは改ざんされた ー 新潟県知事選から見える日本の風景

新潟県知事選挙と日本

知事選挙は、日本の縮図である。元霞が関の官僚が自民党の推薦で出馬し、中央とのパイプを語って当選し、東京からおこぼれをもらうために腐心する。

自民党と官僚と地方の財界の強固なピラミッドは極めて効率的に機能しているわけだ。

新潟県知事選でも、経産官僚出身である泉田県政で副知事を務めた、国土交通省出身の花角氏が当選した。

同じ北陸の石川県など、1963年からこの方、知事は全員内務省・自治省出身である(まあ、二人しかいないのだが)。

 

新潟県知事選で与党系の候補が勝利した途端、ネット上には野党への揶揄で溢れた。

いわく、野党は批判ばかりだ、野党は経済政策を語らない、野党はプロモーションが下手だ。

(野党は経済政策を語れ、とは「物価上昇率2%を達成する、達成しなければ副総裁が辞める」といえ、という意味だろうか、という話はおいておくとして)

 

別にそれらが間違っているとは言わない。今日の論点はそこではない。

「パーキンソンの凡俗法則」をご存知だろうか。

原子炉の建設計画は、あまりにも巨大な費用が必要で、あまりにも複雑であるため一般人には理解できない。このため一般人は、話し合っている人々は理解しているのだろうと思いこみ口を挟まない。強固な意見を持っている人が、情報が不十分だと思われないように一般人を押さえ込むことすらある。このため審議は「粛々と」進むことになる。

この一方で、自転車置き場について話し合うときは、屋根の素材をアルミ製にするかアスベスト製にするかトタン製にするかなどの些細な話題の議論が中心となり、そもそも自転車置き場を作ること自体が良いアイデアなのかといった本質的な議論は起こらない。次に委員会の議題がコーヒーの購入といったより身近なものになった場合は、その議論はさらに白熱し、時間を最も無駄に消費する。

自転車置き場については誰もが理解している(もしくは理解していると考えている)ため、自転車置き場の設置については終わりのない議論が生じることになる。関係者の誰もが自分のアイデアを加えることによって自分の存在を誇示したがるのである。

 

パーキンソンの凡俗法則 - Wikipedia

野党批判は極めてお手軽で簡単で、白熱する。こうすれば野党はもっと支持される、というような議論は簡単だからだ。

一方、自民党と知事と地元財界の鉄のトライアングルについては語られない。語ったところで無駄だからだ。

ということで、「野党はこうすれば勝つ」というような議論は白熱し、誰もが一家言を語りたがる。 

自民党と戦後日本

自民党という政党はあまりに深く日本の統治システムに入り込んでいる。自民党は、戦後日本そのものであると行ってもいい。

二回三回、自民党以外の政党が政権の座につくことは無いとは言わないが、この先も、永久に、永遠に、自民党議員の子孫たちは日本という国が同じ政体で存在し続ける限り、権力の座に座り続けるだろう。

 

我々が直視しなければならないのは、政権政党の二世、三世、四世たちが自分たちの権力と利権を守るためなら平気で不正に目をつぶるというこの現実だ。

彼らは、自分たちが政治家で居続けるためなら、不正にも平気で沈黙することが出来るのだ。

二世三世四世の、更に子孫である三世四世五世も政治家になり、同じように沈黙するのだろう。それがこの国そのものの形である。

 

この一年間、政府・自民党は一体何をしただろう。公文書を改ざんし、破棄し、国会を破壊した。全く立法事実がない中で、労働法制を根本から破壊する高度プロフェッショナル制度を可決しようとしている。

この一年間、では野党は何をしただろうか。データの改竄を発見し、裁量労働制の法案提出を断念させ、森友・加計問題では税金の不適正な仕様を発見した。

お手軽な政治的議論をやめる時が来た

野党は経済を語らない、のか?

「野党は経済を語らない」という「よく言われている」批判がある。今回の新潟県知事選挙でも、「安倍総理の批判ばかり」という批判があった。

しかし、例えば立憲民主党の公式サイトには、経済産業政策が書かれている。

一人ひとりの持てる力が発揮され、幸福が実感できる経済を実現します。
自由貿易体制の発展にリーダーシップを発揮し、多国間・二国間での経済連携については、日本の利益の最大化を図ります。
国際的な人的・物的交流が円滑に行われるよう、経済社会活動の基礎となる法整備を進めます。
人々の生活を豊かにする新産業や起業倍増に向けた人材育成を進めます。
暮らしを支え、地域のけん引役である中堅・中小企業、小規模事業者が、意欲を持って努力と創意工夫を重ね、個性や可能性を存分に伸ばすことができる経済社会を実現します。
基礎研究を強化し、イノベーション(技術革新)につながる環境を整備します。 

枝野幸男代表の民進党代表選の出馬時にも、第一にこのような政策を掲げている。

1.支えあう経済
多様性を認め合い、互いに支え合う経済を実現します。国民の所得を削り、中流層を激減させたままでは、本当の意味で活力ある経済は再生しません。まずはこれからの日本にとって重要な、保育・教育、医療・介護といった分野の賃金を底上げし、雇用を拡大します。非正規雇用を減らし、希望すれば正社員になる道を広げます。過労死を招く長時間労働を厳しく規制します。格差を是正し、公正な分配によって、力強い経済成長の循環を作り出します。

 

枝野幸男 みんなと進むリーダーへ|2017 民進党代表選挙特設ページ

民主党系政党の一貫したエコノミクスポリシーは、「人への投資」だろう。これは、09年政権交代以降、民主党、民進党、立憲民主党・国民民主党と分かれても継続している。

概ね、労働規制と再分配政策、実質賃金の引き上げを中心としている。

 

国民民主党の綱領にも、こうある。

一 私たちは、「人への投資」を重視し、公正な再分配によって理不尽な格差をなくし、持続可能な経済を確立します。
一 私たちは、少子高齢化や過疎化を克服し、安心の社会保障を実現します。
一 私たちは、子どもと若者、孤立して生きざるを得ない人々、社会的マイノリティ、障がいのある人々、非正規雇用で働く人々等、声の届きにくい人々に寄り添います。
一 私たちは、地域主権改革を進め、豊かさが実感できる、自立した活力ある地方にします。
一 私たちは、政官財のしがらみをなくし、政治と行財政の改革を誠実に実行します。
一 私たちは、立憲主義と国民主権・基本的人権・平和主義を断固として守り、国民と共に未来志向の憲法を構想します。
一 私たちは、専守防衛を堅持し、現実的な安全保障を築きます。
一 私たちは、開かれた国益と広範な人間の安全保障、恒久平和と核兵器廃絶をめざします。 

通常、詳細な政策というのは、選挙の際に作られるマニフェストによって示されるもので、選挙前であれば、この程度の粒度であるのはやむを得ない。

問題なのは、前回わけのわからない理由で前原代表が民進党を解散した結果、野党のマニフェストが中折れになってしまったことだ。

いずれにせよ、現段階において「野党は経済政策を語らない」と述べるならば、このようにすでに示されている経済産業政策の指針を把握した上で、どのような点が「語られていない」のかを示す必要があるのではないか。

(例えば、金融政策について明確な方針が示されていない、という批判は十分に有り得る思う。しかし金融政策は経済政策とイコールではない)

 

むしろ、旧民主党以来、その政策的な価値は変わっていないのではないだろうか。子どもの貧困や少子化などの課題は、この十年、手付かずのままである。

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いま国会で起きていること

前回の記事で記載したとおり、すでに政府与党は、立法事実が無いままに法案を取りまとめ、データが間違っていたことが分かってもそのまま通すという極めて異常な状態となっている。

森友学園や加計学園問題では、書類が改ざんされ隠されるという近代国家とはとても呼べない狂気の状況になっている。

野党批判はたしかに楽だ。はっきり言えば、頭を使わなくて済む。アクロバティックな理論で政府を擁護する保守系の方々のほうが、よほど頭を使って理論を構築している。

 

 

(もしあなたが安倍政権の熱心な支持者ではないなら)お手軽に、頭を使わずに、野党を批判するのはもういい加減にやめるべきではないか。

風車に突進するドンキホーテを嗤うことは簡単だ。誰だって出来る。

しかし、もしその風車が、今にも崩壊しそうな危険な状態であったとしたらどうだろうか?風車を止めて、解体すべきなのだ。