「ある意味犯罪」「週休七日が幸せか」「いい加減にしろ」 ― 与野党政治家の発言から振り返る、第196回(2018年)国会の異様さ
196回国会が閉幕した。異質で異様だった前国会について、本記事では時系列を追ってまとめた。
※国会の議事録の性質上、全発言を引用するととても助長になるため、一部抜粋しているものがあるが、大意は変わっていない。
ハーバー・ビジネス・オンラインにもほぼ同内容で掲載していただいた。細かい点で見やすくなっているのでご一読いただければ。hbol.jp
【1月〜4月】森友と加計と文書改ざんの春
野党の時間配分削減問題
八年間続いた慣例が破られたということで、そんなに野党の質問が嫌なのかなというふうにも思わざるを得ないんですけれども
長妻昭 政調会長(立憲民主党)
国会でお決めになることだろう、このように思います。
安倍晋三 総理大臣(自由民主党)
1月29日 衆議院予算委員会
国会の冒頭、最も話題になったのは、与野党の質問時間の配分に関する問題だった。
慣例的に野党に多めに配分されていた質問時間を、石崎徹衆院議員を中心とした自民党の若手議員が中心となり、質問の機会を増やすことを要望した、ということらしい。
昨年は「プレミアムフライデーの感想」「婚活イベントに行った感想」などを閣僚に尋ねるなど大変意義深い質疑をされていた石崎議員。
TOKYO縁結日二〇一七というイベントが開催されました。(中略)約三千人の方が訪れたということで、大盛況であったというふうに聞いております。
こうしたところに加藤大臣みずから出られて、その御感想なりをお伺いしたいと思います。
平成29年3月15日 衆議院内閣委員会
実際、大臣も働き方大臣ということで、プレミアムフライデー、百貨店に行かれたということでございますが、このあたり、御感想を少しお伺いできればと思います。
平成29年3月15日 衆議院内閣委員会
今国会では一度しか質問の機会がなかったようだが、与党の質問時間が半分あれば、石崎議員の質問の場も増え、もっといろいろな感想を閣僚から引き出せたかもしれないと思うと、実に残念だ。
ともあれ、このような「野党の質問を嫌がる」総理、あるいは自民党の姿勢は、今国会を通じて一貫していたと言える。
ちなみに、この交渉の舞台裏については、辻元国対委員長が当時を振り返り、このように述べている。
森山委員長も私も電卓を持って、自民党国対の部屋で向かい合うわけですよ。そして、アイスクリームを食べながら、電卓をバチバチ叩いて、「これでどうだ!」、「これでどうだ!」と数字を見せ合う。
そのうち、自民党が「与党5対野党5」と言っていたのが、「1対2」になって、「3対7」になって、最終的には慣例通りの「2対8」に戻して……。
国税長官の証人喚問を巡る駆け引き
さて、冒頭国会の一つの焦点は、国税庁長官に昇進した佐川氏が証人喚問されるのか?という点に関する駆け引きだった。
総理は、適材適所だと佐川長官のことをおっしゃいました。適所にいる適材であれば、しっかりとこの場に出て話すことは可能なはずです。なぜ隠すんですか。
西村智奈美 衆院議員(立憲民主党)
2月2日 衆議院予算委員会
このとき、まだ政府は佐川氏を適材適所と述べており、また佐川長官は慣例となっている就任時の記者会見も行わないという異様な状態だった。
茂木敏充経産大臣の線香配布問題
政党支部の活動だから問題がないとか、名前が書いてないから問題がないとか、そういうことではなくて、そもそも法の趣旨として、物を配って政治活動をしてはいけないんだということなんです。
青柳陽一郎 衆院議員(立憲民主党)
2月5日 衆議院予算委員会
森友・加計以外に注目されたスキャンダルの一つに、茂木経産大臣の線香配布問題があった。同じような事案で議員辞職をした小野寺大臣が答弁を求められ、困惑した様子を見せていた。
相次ぐ沖縄での米軍の不祥事に対する対応
前国会に引き続き、江崎鉄磨沖縄北方担当大臣の失言問題も問題になった。
江崎大臣は健康問題で退任し、公認に福井照議員が就任するものの、色丹島を「しゃこたん」と誤読するなど、沖縄北方大臣としての見識を疑われる事態が相次いだ。
また、米軍機の墜落に合わせ、松本文明内閣府大臣が発言した内容が問題となり、副大臣を事実上更迭された。
それ(米軍機事故)で何人死んだんだ
松本文明内閣府副大臣(自由民主党)
1月26日 衆議院本会議 沖縄県で相次いだ米軍機事故をめぐって共産党の志位氏に野次
個人的には、この暴言は議員辞職級であると思うが、まあ、これで辞めていたら、今国会はずいぶん欠員が出てしまうだろう。
公開ヒアリングとその批判
全面テレビ公開で、公開リンチのよう
牧原秀樹 厚生労働副大臣(自由民主党)
3月1日 自民党部会にて
こう述べた牧原氏は後に発言を撤回したが、今国会において、最も注目されたポイントの一つは、野党が行う野党合同・公開ヒアリングだろう。
もともとヒアリング自体は与野党問わず行っており、野党側はマスコミフルオープンで行っていることも多かったが、加計学園問題や森友学園問題(にまつわる財務省の不正)という、国民・マスコミからの関心も高く、注目された。
野党合同ヒアリングの中で、チェックマークのある資料とない資料の存在が明らかになるなど、一定の成果があったと言えるだろう。
www.asahi.com
渡邉美樹氏の問題発言
働き方改革問題では、渡邉美樹参院議員の発言も問題となった。
渡邉議員は、過労死遺族を前にこう述べた。
お話を聞いていると、週休七日が人間にとって幸せなのかと聞こえる
渡邉美樹 参議院議員(自由民主党)
3月13日 参議院予算委員会公聴会 過労死遺族に対して
私個人の感想としては、過労死遺族の公聴会で渡邉氏を質問に立たせるほうがどうかしていると思う。
政府、裁量労働制の対象拡大を撤回へ
実態を反映したものとは確認できなかった
加藤勝信 厚生労働大臣(自由民主党)
3月23日 厚生労働委員会
今国会の目玉法案の一つである裁量労働制の拡大を撤回したことは、与党にとっては大きな痛手となった。
裁量労働制の立法事実に関わるデータに致命的な不備が見つかり、撤回に追い込まれたのだ。
しかしながら、高度プロフェッショナル制度を盛り込んだ働き方改革法案は、似たようなデータの不備にも関わらず、後に法案が提出されることになる。
財務省による改ざんが明らかに
さて、公開ヒアリングでのらりくらりと交わし続ける中、朝日新聞がスクープを出した。森友学園関連文書の改ざん(書き換え)疑惑である。
当時は(これが本当であれば)内閣総辞職は当然として、財務省解体まで視野に入るのではないか、と思われた大スキャンダルだった。
一方、財務省トップである麻生財務大臣や、官邸の対応は、異様なほど鈍かった。
どの組織だって改ざんはありえる話だ。会社だってどこだって、ああいうことをやろうと思えば個人の問題でしょうから
麻生太郎財務大臣(自由民主党)
5月8日 記者団に対して
少し言葉を書き換えた程度の話だ。大したことはない
首相官邸幹部
毎日新聞の報道による
また、一部議院が報道の信憑性に疑問を投げかけていたことも記憶に新しい。
朝日新聞さん、指摘する文書の件、まさかとは思いますが全く別の決裁文書の調書を比較し、文言が変わっていると指摘ということはないでしょうか?「売買契約の決裁文書」とは全く別の文書の「予定価格の決定の決裁文書」の調書と比較すると、朝日の指摘とほぼ合致するのですがhttps://t.co/rPoypRjfhI
— 和田 政宗 (@wadamasamune) March 8, 2018
いずれにせよ、本件についての信憑性は後に明らかになることになる。
安倍総理は11日に知ったと答弁していたものの、後に5日の段階で把握していたことが明らかになっている。
これにより、「適材適所」と称していた佐川国税庁長官は辞任。
麻生財務大臣は本人から辞意の申し出があった、あくまで適材適所としながらも、減給処分を発表した。
佐川氏、証人喚問へ
佐川氏は、財務省を辞した後に証人喚問されることになる。
証人喚問は、結果的には「刑事訴追のおそれがある」ことを理由に、野党の質問の殆どを拒否する結果となった。
丁寧さに欠いたどころか、決裁文書に書いてあることとも正反対のことをこの場で答えたんですよね。何でそんなことされたんですか。
小池晃 書記局長(日本共産党)
あの、やはりその件は、私自身がその書換えのその経緯、いつ書き換えたかとかそういうことを、まさに時期に関わるその話でございますので、そこはお答えを差し控えさせていただきたいと思います。
佐川宣寿 証人
これでは証人喚問の意味がありません。これも拒否するんだったら、これ以上聞いたって意味ないじゃないですか。
私は改ざんについて聞いているんじゃないですよ。実際に国会の答弁をどういう根拠でやったか聞いたんですよ。これ、これで進めるわけにいきません。小池晃 書記局長(日本共産党)
3月27日 参議院予算委員会
一方、「総理の影響も総理夫人の影響もなかった」ことだけははっきりと答え、自民党議員も「関与はなかった」と高らかに宣言した。
佐川氏がいったい何を目的としてこの場に立ったのは、多くの人には明らかであっただろう。
私が昨年勉強して、ずっと一連の書類を読んで国会で答弁をさせていただいた中でいえば、総理も総理夫人の影響もございませんでした。
佐川宣寿 証人
少なくとも、今回の書換え、そして森友学園の国有地の貸付け並びに売払いの取引について、総理、総理夫人、官邸の関与はなかったということは証言を得られました。ありがとうございました。
丸川珠代 参院議員(自由民主党)
3月27日 参議院予算委員会
予算委員会集中審議
改ざん、首相案件と多くの問題が明らかになる中、四月に入り、野党は、森友・加計問題で政府を追求する。まずは川内博史議員と大田理財局長だが、そこで飛び出したのは驚愕の答弁だった。
安倍昭恵総理夫人の名前が三カ所記載されていることを中村課長は十分に知っていたということでよろしいでしょうか。
川内博史 衆院議員(立憲民主党)
中村理財局総務課長に確認したところ、それは責任はありますが、正直に言うと、その時点においてそこまでちゃんと見ていなかったので、それは覚えていませんでしたというのが彼の正直な発言でございます。
大田理財局長(財務省)
4月11日 衆議院予算委員会 集中審議
その後、枝野幸男立憲民主党代表が麻生大臣に問いただすと、大臣からはこのような答弁が帰ってきた。
判こを押した当人が、決裁文書を読んでいませんでしたと公然とおっしゃる。役所として、たがが外れ過ぎじゃないですか。枝野幸男 代表(立憲民主党)
ずうっと判こを押したやつの中を全部私ども読んでおるかと言われると、私自身も、正直、読んでいない書類に関していろいろ決裁の判こを押していることはありますから
麻生太郎 財務大臣(自由民主党)
4月11日 衆議院予算委員会 集中審議
財務省のガバナンスは一体どうなっているのか、と疑問を抱かざるをえない。
愛媛文書と「首相案件」
さて、森友文書問題で国会が揺れる中、新たな問題が明らかになる(あらゆるところで火が付けばどこが火元かわからなくなるが)。
加計学園問題をめぐり、「本件は首相案件」と総理秘書官が発言していたのではないか?という問題だ。
柳瀬総理秘書官は、当初このように「記憶がない」とコメントしていた。
国会でも答弁していますとおり、当時私は、総理秘書官として、日々多くの方々にお会いしていましたが、自分の記憶の限りでは、愛媛県や今治市の方にお会いしたことはありません。
柳瀬唯夫 審議官(経済産業省)
この問題に関しては、加計学園への便宜供与という問題が取り上げられたのと同時に、総理秘書官という重職にある人間の行動が記録されていないということがありうるのだろうか?という点も問題となった。
集中質疑でも当然議題に登るものの、総理は「コメントする立場にない」などと意味不明の答弁を繰り返した。
愛媛県の担当者が聞いてもいないことを書いたんですか。そうでなかったとすれば、柳瀬さんがうそをついているか、どっちかしかないんですよ。違いますか、総理。
枝野幸男 代表(立憲民主党)
先ほど申し上げましたように、愛媛県が作成した文書の評価について、国としてコメントする立場にはないわけでございます。
安倍晋三 総理大臣(自由民主党)
論理的に、柳瀬さんがうそをついているか、愛媛県の担当者が聞いてもいないことを勝手に書いたか、二つに一つじゃないですかと聞いているんです。
枝野幸男 代表
今お答えをしたように、愛媛県が作成した文書の評価について、国としてコメントすることはできないわけであります。
他方、私は部下を信頼して仕事をしているところでございまして、総理秘書官在任中もそうでありましたが、柳瀬秘書官の発言を私は信頼しているところでございます。安倍晋三 総理大臣(自由民主党)
4月11日 衆議院予算委員会 集中審議
「コメントする立場にない」という言葉が何を指しているのかは理解できないが、いずれにせよ総理はこれについて答弁したくないのだ、ということだけは理解できる。
財務事務次官のセクハラ問題
このように、省庁のガバナンスや政府の嘘が問題となる中、明らかになったのが、当時の財務省事務次官のセクハラ問題だった。
発言自体の問題もさておき、任命権者たる麻生財務大臣の発言は、セクハラを容認していると取られかねない発言だった。
一方的な訴え、取扱いのしようがないです。状況が分かるよう音声の声の人が出てこなきゃならないでしょ。本人が申し出てこなけりゃどうしようもないですね。
麻生太郎副総理 財務大臣(自由民主党)
また、下村元文部科学大臣が「ある意味犯罪」などとテレビ局の記者を批判したことも波紋を呼んだ。
テレビ局の人が、隠してとっておいて週刊誌に売ること自体がはめられていますよ。ある意味で犯罪だと思う
下村博文 元文部科学大臣
4月22日 講演にて
また、セクハラ問題へのパフォーマンスとして黒い服を着た野党議員を「セクハラとは縁遠い方々」などと述べた長尾たかし衆院議員(自由民主党)は、後に発言を撤回したことも記しておく。
福田氏は後に辞任を表明し、佐川氏と並び、財務省のトップ二人が不在という異常な事態に陥った。
野党、審議拒否へ
このような異常な状態の中、野党は審議拒否に踏切り、「四項目」を審議復帰の条件として上げる。
財務省の福田淳一事務次官のセクハラ疑惑や同省による決裁文書改ざん問題を踏まえた麻生氏の辞任
森友・加計学園問題に関連する柳瀬唯夫・元首相秘書官らの証人喚問
財務省の改ざん問題に関する調査結果の4月中の公表
イラクに派遣した自衛隊の日報問題の真相究明――の4項目
国会は二週間以上も空転し、妥協点が見えない中、最終的には柳瀬氏の参考人招致を条件に、審議に復帰することになる。
話し合いに応じようと思う。議長の要望に応えられるように、どこまで歩み寄りができるのかというのがこれからの段階だ
辻元清美 国対委員長(立憲民主党)
審議拒否は野党にもダメージを与え、与党議院からの批判も相次いだ。
また、この間に「希望の党」と「民進党」が合併するなど、野党間の枠組みにも変化があった。
審議復帰と柳瀬氏の招致
参考人招致に応じた柳瀬氏は、記憶にない、と語っていた前回の招致からは一転し、加計学園関係者との接触を認めた。
一方、面会は特別なものではなかったし、国家戦略特区関係ではなかったことも強調した。
総理秘書官は総理大臣と一心同体ですよ。しかも、将来の許認可の対象事業者、補助金の対象事業者でもある方とあなたが会うと、それは総理に累が及ぶんですよ。
では、お聞きしますけれども、あなたが総理秘書官として民間の、外部の方に会う会わないの基準は何ですか。
江田憲司 衆院議員(無所属の会)
よっぽど反社会的勢力であるとかそういうことを別にすれば、できるだけアポイントの申入れがあればお会いするようにしてございました。
柳瀬唯夫 審議官(経済産業省)
また、重要なポイントとして、総理秘書官であった柳瀬氏が、総理の親友が理事長を務める加計学園の関係者と面会しながら、それについて一言たりとも総理に報告しなかった、と証言したことがあげられる。
ランチとかそういう日々の、夕方の日程調整、総理を囲む場でもあなたは一切この話を雑談でもしなかったんですか、安倍総理に。おかしいじゃないですか。
江田憲司 衆院議員(無所属の会)
一切お話ししたことはございません。
柳瀬唯夫 審議官(経済産業省)
私に言わせれば、それはあなたが口にばんそうこうでもしていない限り、絶対それは言うんですよ。
江田憲司 衆院議員(無所属の会)
このようなやり取りを通じ、むしろ総理と加計学園の深い関係が明らかになってきたといえるだろう。
このあと、加計学園問題に対して、総理は「コメントする立場にない」「一転の曇りもない」などのフレーズを使いまわしながら、コミュニケーションを徹底して拒否する戦術に出た。
いずれにせよ、五月までに加計学園問題のほとんどの真相は明らかになったと言えるだろう。
総理秘書官が加計学園関係者に面会していたことが明らかになったのだから。
【5月〜6月】高度プロフェッショナル制度と党首討論の初夏
党首討論の歴史的価値
五月の終わり、約一年半ぶりとなる党首討論が開かれた。
全党首を合わせても45分という極めて短い時間ではあり、また、野党第一党である枝野幸男代表は、森友問題や加計問題について問いただしたものの、安倍総理は枝野氏よりも長く答弁するなど、討論は噛み合わなかった。
例えば、
内閣総理大臣の名前を勝手に使われて、物事をうまく運ぼうとしていた加計学園に対しては、どうなっているんだ、これはしっかりと、具体的なことをしっかり説明してもらわなきゃ困ると総理大臣としては言わなきゃおかしいじゃないですか
枝野幸男 代表(立憲民主党)
という枝野氏の質問に対して、安倍総理は下記のように述べている。
(長いのでスクリーンショットにする)
枝野氏は、討論終了後このように述べた。
意味のないことをだらだらとしゃべる総理を相手に、今の党首討論という制度の歴史的意味は終えたことが今日の討論を通じてはっきりした
枝野幸男 立憲民主党代表
5月30日 党首討論後のぶら下がり記者会見にて
穴見陽一議員の信じがたい野次
この時期、信じがたい野次があったことも、ご記憶の方がいるだろうか。
いい加減にしろ
そんなキレイ事ばかり言うならたばこを禁止にしろ
穴見陽一衆院議員(自由民主党)
6月15日 衆議院厚生労働委員会 肺がん患者に対して
いやしくも国会に「お越しいただいている」はずの参考人にこのような暴言を吐くのは、人間としての品性が下劣であるばかりか、議会への侮辱にほかならない。
自民党の家族観
また、この時期は自民党が持つ家族観や人権意識にもスポットライトがあたった。
加藤衆議院議員は、地元の結婚式の来賓として下記のように述べたことが問題視された。
新郎新婦は必ず3人以上の子供を産んでほしい
加藤寛治 衆院議員(自由民主党)
5月10日 結婚式の祝辞にて
その発言の後、党幹部の二階幹事長も、子供を産むことは義務であるかのような発言を行った。
この頃、子供を産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる
食べるのに困るような家はないんですよ。実際は。
二階俊博 幹事長(自由民主党)
6月26日 講演後の質疑にて
また、杉田水脈議員の寄稿も話題となったことも記憶に新しい。
(LGBTは)子供を作らない、つまり『生産性』がない
杉田水脈 衆院議員(自由民主党)
「新潮45」2018年8月号
一人の発言ならともかく、これらの発言を総合すると、自由民主党という政党がいかなる思想を共有しているのか、見えてくるのではないだろうか。
高度プロフェッショナル制度を巡る攻防
後半国会で大きな争点となったのは、高度プロフェッショナル制度だ。
裁量労働制の拡大はデータの不備で撤回されたにも関わらず、高度プロフェッショナル制度に関しては、どのようなデータの不備があろうとも、頑なに今国会で成立させる姿勢を示した。
当初、労働者からのニーズが有るとされていたものの、
ニーズということであればですね、私どものほう、これ、あの、実際、いくつかの企業と、あるいは、そこで働く方からですね、いろんなお話を聞かせていただいているということであります。
加藤勝信 厚生労働大臣(自由民主党)
5月9日 衆議院厚生労働委員会
結果的には、ヒアリングはわずか12名を対象に行われただけだった、ということが発覚した。
後に、安倍総理は労働者のニーズではなく、産業競争力会議で意見があったものだと述べている。
高度プロフェッショナル制度はですね、産業競争力会議で、経済人や学識経験者から制度創設の意見があり、日本再興戦略において、とりまとめられたもの。
安倍晋三 総理大臣(自由民主党)
6月25日 参議院予算委員会
いずれにせよ、なぜここまで強硬に採決を急いだのか、という理由は明白だろう。
また、この間「ご飯論法」と言われる、加藤厚労大臣の質問に答えない姿勢も話題を読んだ。
怒号の中の採決
高度プロフェッショナル制度の採決における異様さの一つに、立法事実たるデータがほとんどデータの体をなしていなかったということがあげられる。
衆議院の委員会採決の朝にも新しいデータが提出されるという有様だった。
これは、私のきょうの資料の二ページ目と三ページ目につけました。この資料自体、きょう出てきた数字によって、新たに午前中出されたこの数字によって変わったんですよね。
岡本充功 衆院議員(国民民主党)
当日朝に修正した資料への対応に右往左往する始末で、挙句の果てに、修正したデータの誤りを指摘されている最中に委員長が討論を打ち切るという暴挙に出た。
三十分近く延びているのに何で合計が変わらないのか、ここ、ちゃんと説明してくださいよ。一番上が変わらない理屈がわからない。ちゃんと説明してください、政務官。
岡本充功 衆院議員(国民民主党)
既に持ち時間が終了いたしております。加藤厚生労働大臣。
高鳥修一 厚生労働委員長(自由民主党)
じゃ、最後、簡単に申し上げますが、今政務官から申し上げた四つの数字ですね、全体から見た下の四つの数字が違っていると。
私たちが出したデータで、要するに、ふえているものと減っているものがあるわけですから、平均が同じになっても別におかしくないということであります。加藤勝信 厚生労働大臣(自由民主党)
数が変わっているんですよ。何事業所調べたかという数が変わったんでしょう、サンプルが。
岡本充功 衆院議員(国民民主党)
既に質疑時間が経過をいたしております。岡本充功君の質疑はこれで終了いたしました。以上で内閣提出法案及び修正案の質疑を終局することに賛成の諸君の起立を求めます。
高鳥修一 厚生労働委員長(自由民主党)
この経緯は過去に記事でまとめている。
高度プロフェッショナル制度事態の問題点は、様々に指摘されているとおりだが、それ以上に法案成立に至る過程は、およそ近代国家とは思えないものだったことを指摘しておきたい。
罰則付き、残業時間の上限規制
罰則付の時間外労働の上限規制や中小企業における60時間超の時間外労働の割増賃金率に対する猶予措置の撤廃、雇用形態間における不合理な格差の解消に向けた同一労働同一賃金の法整備など、連合が求めてきた事項が実現する点は評価できる。
連合 逢見事務局長
働き方改革法案として可決した「残業時間の上限規制」に関しては画期的であり、三六協定に対しても規制をかけるものだ。
また、同一労働同一賃金に関しても、評価する声は大きい。
あまりにも高度プロフェッショナル制度の立法過程がずさんであり、このような画期的な規制が充分に取り上げられることがなかったのは、残念なことだと思う。
財務省の報告により、総理発言の影響力が明らかに
また、この時期森友学園問題に対しても進展があった。財務省から改ざんの報告がなされ、「私や妻が関係していたら総理大臣も国会議員も辞める」という総理の発言以降に改ざんがなされたことが明らかとなった。
普通の思考回路では、この発言がきっかけとなったと解釈されるだろうが、自由民主党という政党ではどうもそうでもないらしく、下記のような発言をした柴山氏は後に訂正する羽目になった。
(改ざんは)国会における総理の答弁が少なくともきっかけになったことは紛れもない事実
柴山昌彦 筆頭副幹事長(自由民主党)
「裸の王様」とは実によくできた寓話なのだと現代になっても感心させられる。
【7月〜8月】カジノと災害対応と不信任案の夏
総理の本音
この時期になると、総理の弱気な発言も度々メディアに取り上げられた。
もう集中審議は勘弁してほしい
安倍晋三 総理大臣(自由民主党)
「総理はこう言っていたよ」と記者団に語った河村建夫衆議院予算委員長は、後に「そういう発言はなかった」と撤回する羽目になった。
官房長官まで努めた党の重鎮であるにもかかわらず、事実を言っただけで訂正させられる委員長も大変である。
豪雨と「赤坂自民亭」
地元秘書から、地元明石淡路の雨は、山を越えたとの報告を受けました。秘書、秘書官と随時連絡を取り合いながらの会でした
西村康稔 官房副長官(自由民主党)
Twitter(現在は削除)
6月末から7月にかけ、中国地方を豪雨が襲った。これらの災害対応も批判を浴びることになる。
すでに気象庁が未曾有の事態であることを会見で述べていたのもかかわらず、安倍総理をはじめ多くの議員が、自民党の会合で酒宴をしていたことが問題となった。
また、国防で重責を担う官房副長官が「山を越えた」などというツイートをしたことも問題となった。
山を超えるどころか、その後も豪雨は拡大し、多数の死者を出す平成最悪の豪雨災害となった。
安倍政権の「危機管理能力」とはなんだったのだろうか?
二度目の党首討論
二度目の党首討論では、前回ほとんど質問への回答がなかった枝野代表が安倍総理との討論を諦めて長演説に走るなど、 終始「討論」と呼ぶ雰囲気にはならなかった。
その中でも真摯に質問をした議員もいる。短い時間ではあるが、岡田克也無所属の会代表はこう問うた。
総理、良心の呵責を感じませんか
岡田克也 代表(無所属の会)
安倍総理は、委員長から「時間が来ております」と何度も注意される中、長々と答弁して岡田氏の時間を浪費し、最後に質問しようとした岡田代表に対してこう言い放った。
やっぱり岡田さん、ルール守んなきゃ
安倍晋三 総理大臣(自由民主党)
党首討論終了直後の安倍首相
— ジャム (@jam9801) June 27, 2018
「やっぱり岡田さん、ルール守んなきゃ」
これが時間の超過もまったく気にせずにベラベラと
言いたい事だけ喋り続けた人間の捨て台詞です。#kokkai pic.twitter.com/3qUz7hZ01g
この国の総理がいかなる人間なのかということが明確になった、という意味では、意味のある党首討論であったと言えるのかもしれない。
カジノ法案の成立へ
豪雨災害の被害も明らかにならない中で、カジノ法案が採決されることになる。
とりわけ、災害対応の陣頭指揮を取るべき国土交通大臣がカジノ答弁に縛り付けられることが問題視された。
野党からは「退席してもいいので災害対策してほしい」という提案がなされるほどであった。
それでも、政府の強い意向によりカジノ法案は成立することになる。最後まで強硬に抵抗したのは自由党の山本太郎共同代表だった。
今回のカジノ法案ではほとんどカジノのこと聞けていないんですよ。それはおまえが質問しなかったからだろうって言われるかもしれないけれども、それどころじゃないんだよってことなんです。どう考えたって優先順位は災害対応だろうって。
山本太郎 共同代表(自由党)
7月19日 参議院内閣委員会
いずれにせよ、政府の優先順位が何なのか、この上なく明確にしたのが終盤国会であったと言えるだろう。
枝野幸男代表の不信任案
安倍内閣が不信任に値する理由は枚挙にいとまがありません。
安倍総理も、せっかく五年半も総理をやられたんですから、後の歴史に断罪されるようなことがないように、一刻も早く身を引かれることをお勧め申し上げます。
枝野幸男 代表(立憲民主党)
7月20日 衆議院本会議
国会の最終盤、話題になったのは枝野幸男代表(立憲民主党)の3時間に渡る安倍内閣不信任案に関する演説だ。
枝野氏は、災害対応、森友・加計問題など七つの論点を挙げて安倍総理が信任に値しない理由を説明した。
参考までに、この演説は話題を呼び、急遽解説付きで出版されている。
緊急出版! 枝野幸男、魂の3時間大演説「安倍政権が不信任に足る7つの理由」
不信任案に関して、自民党議員の対応には深く失望されていた。
もし仮に、官僚システムの崩壊や様々な不祥事に対して真摯であれば、態度は違ったとしても、謙虚にその指摘に耳を傾けるだろう。
しかし、実際は、安倍内閣の閣僚のみならず、自民党議員は「聞いてなかった」「罵詈雑言」などと口々に発言するなど、真摯に指摘に耳を傾ける姿勢は皆無だった。
カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法は20日夜の参院本会議で自民、公明両党と日本維新の会などの賛成多数で可決、成立しました。野党6党派は安倍内閣不信任決議案を提出しましたが、衆院本会議で与党などの反対多数で否決されました。通常国会は22日の会期末を前に事実上閉会しました。 pic.twitter.com/ULNjOm5fRd
— 毎日新聞写真部 (@mainichiphoto) July 20, 2018
国会を終えて
今国会が明らかにしたもの
ここまで第196回国会を振り返ったが、まだまだ書ききれないことがある。水道法や国際観光旅客税、経済政策、いわゆる合区の議論などについてもそうだ。
また、与野党が共に賛成した法案も多数あったが、ほとんど取り上げてこなかったことも事実だ。
今国会を通じて明らかになったことの一つは、安倍総理が病的な嘘的であること、そしてその嘘を、政府や党をあげて隠蔽しているということだ。
自由民主党は、党内で上がった自然な声すらも抑圧し、「実は言っていなかった」と隠蔽する組織になってしまっている。
また、財務省という巨大官庁が機能不全に陥っていり、他省庁の文書を改ざんするほど腐敗していながら、財務大臣がそれを解決する能力も意思も持ち合わせていないことも明確になった。
文科省や厚労省もしかりである。
霞が関に、複数の省庁に渡って、これほど多くの問題が発生したことは、記憶の限りいなかった。
本来、この国会、あるいは次の臨時国会では、腐敗した国家システム、あるいは崩壊したガバナンスをどのように立て直すかというプランが、政府から出てきてしかるべきなのだ。
しかしながら、そのような動きは全くない。
今の現状は、あちこちで火事が起きながら、誰も消火しないままに総理大臣が傍観している、というような状況である。
確かに、全焼すれば火は消えるかもしれない。しかし、それは国家そのものの価値を根本的に毀損する行為に過ぎない。
嘘を突き通せば確かにその場は乗り切れるかもしれないが、そのことによって省庁のガバナンスや生産性、あるいは国家を担保している信頼性そのものが傷つけられるのだ。
いずれにせよ、この国会、そしてこの政府が、これまでの為政者と比べても異質であるということが、時系列を追っていくと、明らかになるのではないだろうか。
我々は何をなすべきか
裁量労働制のデータの誤りを指摘された法政大学の上西教授を中心に、「国会パブリックビューイング」と呼ばれるプロジェクトが立ち上がっている。
下記の記事もご参考に。
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国会が終わったあと、忘れてしまうことが一番の問題である。我々は覚え続けなければいけないし、語り続けなければいけない。
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